10月31日午前3時ごろ、電話が鳴った。友人からの一報だった。「うそだろう」。漆塗装職人の諸見由則さん(59)が那覇市の龍潭付近に駆け付けると、目の前に信じられない光景が広がっていた。自分が10年以上をかけて復元作業に携わった首里城が真っ赤な炎に包まれ、わずか数時間で崩れ落ちていった。「すべてが燃えてしまった。これまでの苦労がゼロになった」
2006年から正殿をはじめ、南殿や城門の塗り替え、扁額(へんがく)の修復、復元作業を毎年のように手掛けてきた。「外での漆塗り作業は台風や雨などに影響されやすい。年に3~4カ月のわずかな期間に集中して作業した」。これまでの苦労を知るだけに、首里城には特別な思い入れがある。
14年、諸見さんは県内唯一という建物の漆修復専門会社「漆芸工房」(那覇市)を設立した。18年に県指定無形文化財保持者(琉球漆器)に認定された。
首里城の正殿や北殿、南殿など計8棟が焼けたが、諸見さんは今も首里城の建物の漆塗り替え作業に従事している。今年から来年にかけて守礼門の扁額の漆塗り替えや、瑞泉門の改修工事などに関わる予定だ。
「火事になったことは変えられない。私は再建の責任があり、必ず首里城を取り戻したい」と前を見詰めた。
修復経験を生かし、諸見さんは再建工事の効率化も追求している。再建しながら、内部と外部の壁の漆塗り作業も同時進行することを考えている。「壁材を取り付ける前に工房で漆を塗った方が効率がよく、(首里城の完成にも)時間短縮ができる」と再建への自信を見せた。
(呉俐君)
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首里城が焼失してから31日で1年を迎える。喪失に向き合いながらも再建という未来に向かって歩く人たちの姿を紹介する。
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