<シネマFOCUS>「声優夫婦の甘くない生活」 愛し合う美しさ描く


この記事を書いた人 Avatar photo 上里 あやめ

 物語の主人公は、還暦を超えた夫婦。舞台は1990年代のイスラエル。2人は声優をなりわいにする旧ソ連からの移住者。物語を構築する全てのエッセンスが絶妙に絡み合い、男女が愛し合うことの難しさと滑稽さと美しさが、キュートに描かれる。

 還暦過ぎて夫婦で移住する目的なんて、絶対に穏やかな生活を想定してのこと。でも、当時のイスラエルは湾岸戦争直前で、イラクからの攻撃におびえて暮らす国。声優の経歴を生かせる仕事は見つからず、途方にくれる中、力を発揮するのは、意外にも守られるタイプ女子の妻だった。

 美声を武器に、夫に内緒でテレフォンセックスアポインターとしてたくましく生活を支える。一方、仕事も見つからず、プライドだけが高くそびえる夫は、立場が逆転していく状況に耐えられない。妻はいら立ち、そして気づく。「私、ずっと我慢してたんだ」と。切ない。愛が終わる匂いが立ち込めている。でも、つなぎ留めるのも「愛」の力。皆!手遅れになる前に、愛を叫ぼう! 監督はエフゲニー・ルーマン。
 (桜坂劇場・下地久美子)