森喜朗氏「女性の会議」発言の何が問題なのか 沖縄から考えた


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東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長=1月28日、東京都中央区

 東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」と発言し批判を受けている。森氏は4日になって謝罪・撤回したが、いったい何が問題なのか。沖縄県内の識者や関係者に、「女性蔑視」にとどまらず、幅広い論点から聞いた。(玉城江梨子、座波幸代、慶田城七瀬)

<森氏発言の概要を振り返る>

■会議は何のため?

 女性の幹部登用を積極的に進めている金秀グループの呉屋守将会長は「男女関係なく、空気を読まず発言する人はいる。大事なのはその発言をちゃんと聞いた上で判断すること」と力を込める。自社の会議での経験を踏まえ「いろんな意見、要望を聞いて、その解決法や結論を出すのが会議だ。男性だけだと忖度して言わないが、女性は大きな会議でも、相手が会長であろうと正直に『違う』と言う」と話す。

 県経営者協会女性リーダー部会の富原加奈子会長も「会議の場にはそれぞれの立場の代表として『伝える責任がある』と感じて皆さん発言していると思う。会議で話し合って決めるのではなく、その前に決まっているという文化なら、それに慣れている方たちとはそもそも議論のとらえ方が違うのだろう」と指摘した。 

 森氏の発言や考え方について、「これが(日本社会の)大半を占めているなら、(男女共同参画にとって)大きな壁だし、多勢に無勢だと思う。 でもそれが今の日本の実態であり、厚い壁だ」と指摘。「多くの場合、意思決定者はよかれと思ってやっているのかもしれないが、それを自分の価値観だけでやっている。当事者ではないので想像の域を超えず、きっとこうだろう決めつけている。女性だけでなく、高齢者や外国人など、当事者ではないと分からないことはたくさんある。そういった多様な立場の人の考えや現状を反映させていくことで世の中がよくなっていく」と語った。

談笑する金秀グループの呉屋守将会長(右から3人目)と金秀商事の砂川久美子副社長(同2人目)ら=2020年12月

■女性は「わきまえて」参加?

 沖縄弁護士会の村上尚子会長は「会長という立場からあってはならない発言。女性を一くくりにして侮辱しており、女性差別だ」と一蹴した。

 東京五輪・パラリンピック組織委員会の理事は35人中、7人が女性だ。組織委の女性理事について森氏は「わきまえておられて、みんな競技団体のご出身で、国際的に大きな場所を踏んでおられる方々ばかり。的を射たご発信をされて非常にわれわれも役立っている」と述べた。村上会長は「わきまえて」という表現に注目。「根底に女性蔑視がある。本来男性だけのところに女性を入れてあげているという意識だ」と指摘した。

■女性政治家たちはどう見る?

 県内の女性政治家たちは森氏の発言をどう受け止めたのか。喜友名智子県議(てぃーだネット)は森氏について、「これまで夜の会合など、オフィシャルな会合以外の場で物事を決定してきたのではないか。自身の考えに対して異議のない場で決めてきたのだろう。表立って自分と違う意見を言う人をつぶしてきたというやり方だったのではないか」と厳しく指摘した。森氏のこれまでの問題発言も踏まえ、「国際的なイベントを行う日本側の代表がこういう人でいいのか。そもそもそんな人を組織委員会の代表にしていること自体がおかしかったということだ。これを『またか』で済ませてはいけない」と会長の交代を求めた。

 喜友名県議はツイッターで「JOC、五輪・パラ組織委とも、次の会長は女性にしよう!会議に出ても発言しないなら、『いないと同じ。次から来ないでいいよ』という組織は世の中にはたくさんあります。厳しいけど、だから良い決定につながる。これまでスポーツ組織の会議でたくさん発言した女性たちを支持します」と投稿した。すると、「女性だから何でも任せていいのか」「立憲民主党だって男性党首だろう」などという反応もあったといい、「 こういう議論のすり替えを相変わらず続けているのが、日本のジェンダー議論」と現状の課題を指摘した。

 仲村未央県議(沖縄・平和)は「総理をやった人の発言であり、一層許しがたい。共生社会に取り組む全ての人々の努力をおとしめるものだ。公然と女性を侮蔑し、組織の長にあるまじきもので許しがたい。日本が女性蔑視に寛容ではないことを示すべきだ。オリンピック精神にも共生社会の取り組みにも水を差すものであり、内外に与えた不信ははかりしれない。政府も毅然と抗議し、あるべき社会を示すべきだ」と怒った。

「沖縄ガールズよ、もっと大きな志を抱こう!」とポーズを取る「I Am」参加者ら=2020年11月

■問題は森氏だけか?

 沖縄ガールズエンパワーメントプログラム「IAm」共同代表の阿部藹(あべ・あい)さんは、「『女性だから発言が長い』『女性はわきまえるべき』という発言が笑って受け入れられる会議はまさに日本の社会の縮図。女性への圧力が根強く存在していることを改めて示した」と指摘する。

 ツイッターでトレンドになっているハッシュタグ「#わきまえない女」にも触れ、「社会からの圧力に負けないで自分らしく生きていく力を身につけてほしいとエンパワメントの活動を立ち上げた。ここ沖縄社会の足元からわきまえない女でいいじゃん、という価値観を築いていきたい。それが女性だろうが男性だろうがトランスジェンダーだろうが1人の人間として扱われる社会だと思う」と話した。

■国際法に照らすと

 琉球大学客員研究員で「沖縄国際人権法研究会」の発起人でもある阿部さん。国際人権法の観点から女性差別撤廃条約にも言及。「第1条(性に基づく区別、排除又は制限)が定める女性差別の定義にぴったり当てはまる」と指摘した。条約締約国には公人の差別発言を放置してはいけないという尊重義務があるとする。「森氏は元首相でもあり政府が就任を要請して東京五輪・パラ組織委員会の会長に就任した経緯があり、政府として森氏の発言を放置することは許されない。国際社会から女性差別を放置する国とみなされないためにも、政府として責任をもって対処する必要がある」と述べた。

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