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沖縄「観光危機管理」後手のまま…医療との連携や雇用支援<変革沖縄経済>10


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
県が策定している沖縄県観光危機管理基本計画と実行計画

written by中村優希

 コロナ禍で観光需要が唐突に“蒸発”してしまい、観光に携わる企業や施設の事業継続が大きな課題となっている。沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)の下地芳郎会長は「外部要因による急激な落ち込みや風評被害を受けやすいなど、観光の特性に対応できる財源が必要だ」と指摘する。

 災害や事故など命に関わる危機的な状況に対し、観光客や観光産業に及ぶ被害を最小限に抑える対策を「観光危機管理」と言う。災害や航空機・船舶事故、テロ、感染症などさまざまな事態を想定し、衝撃を緩和する対策や備えを持っておくことが重要になる。

 だが、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の前に、沖縄県や観光業界の観光危機管理は後手に回ってしまった。

 2011年の東日本大震災を受け、県は「観光危機管理基本計画」を策定している。計画に基づいて台風や地震などの自然災害に備えた訓練などに力を入れてきたが、感染症に関する備えの意識は弱かった。新型インフルエンザ、はしかの流行は経験してきたが、期間や地域が限定的だったため経済的な打撃は少なかったためだ。

 新型コロナが発生すると、ホテルや交通機関など観光客を受け入れる施設では感染防止対策の導入に追われた。県外との往来を通じてウイルスが持ち込まれる「移入例」が報告され、観光客に白い目が向けられることもあった。

 当初は医療と観光の連携が弱く、県内の感染者の療養先として宿泊施設を利用する際の調整にも時間を要した。医療資源の乏しい離島県で、空港・港湾でいかに感染者を早期に把握するかの水際対策は、今も模索が続いている。

 危機時の産業支援では、既存の制度がいざという時に使いづらいという状況が起きた。コロナ禍で雇用を守る命綱となっている雇用調整助成金は当初、申請に膨大な資料が必要となるなど手続きの煩雑さが支給遅れにつながった。

 事業者の休業や廃業によって雇用が失われ、長年観光業で経験を培ってきた人材が業界を離れることにもつながる。観光危機管理を研究するサンダーバードの翁長由佳代表は「沖縄観光は1200万人を目標にしてきたが、それに見合った危機への備えができていたのか見直す必要がある」と、持続可能な観光地としての課題を指摘する。

 OCVBの下地会長は、危機時に使える自由度の高い財源として「観光危機管理基金」の創設を提案する。観光の好調時に蓄えをつくり、危機時に活用する。県庁や議会の決議を待つことなく、業界のニーズに沿った素早い対応が可能となる。ある観光関係者は「空港でのPCR検査など、迅速に使える予算があればもっと早い段階でできたはずだ」と指摘する。

 新型コロナの前から、県独自の財源として「宿泊税」を創設する計画がある。宿泊料金に上乗せして観光客から徴収し、観光振興の施策に活用する財源を積み立てるという設計だ。だが、コロナの影響を受けて宿泊税の導入に向けた議論は止まってしまった。

 感染対策を強めれば経済が落ち込むというジレンマを抱える沖縄。一方で、感染症への備えを徹底して域内で経済を回し、世界的にもコロナ対策の「優等生」と評される地域がある。沖縄と隣り合う、台湾だ。
 (変革沖縄経済取材班 中村優希)

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