部活の高2死亡 繰り返す「指導死」平成以降94件 大半「言葉の暴力」で支配


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 運動部顧問の日常的な叱責に悩んでいた県立高校2年の男子生徒が、今年1月に自ら命を絶っていた。県教育委員会は第三者委員会を設置し、因果関係の調査を始める。教員の「指導」に追い詰められた生徒が自殺する事案は全国的に相次いでおり、「指導死」という言葉も生まれている。

 2012年、大阪市立桜宮高校のバスケットボール部キャプテンが顧問の体罰や暴言に追い込まれ、自殺した。18年には岩手県立不来方高校バレーボール部の男子生徒が顧問から「必要ない」「使えない」と言われ、自殺した事案もある。

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 教育評論家の武田さち子さんの調査によると指導死(未遂含む)は平成以降94件発生し、88%に当たる83件が殴る蹴るなどの暴力を伴わない事案だった。武田さんは、今回の件について「桜宮や不来方と似ている」と指摘する。遺族によると、生徒は顧問から「主将をやめろ」「部活をやめろ」などと日常的にきつく叱責されることを悩んでいた。

 実力のある選手に厳しく当たることで、部活動全体を支配する。武田さんは「実力のある選手が怒られれば、周りもおびえ、恐怖で支配される。パターン化された図式だ」と分析。「嫌ならやめればいい」という指摘は、的を射ていないという。「一生懸命やっている子にとって部活をやめるのは人生を棒に振ることにつながる。やめれば努力が無駄になると思っているうちに、精神がむしばまれる。自殺未遂をした子に話を聞くと、『気がついたらそうしていた』と言う。不適切な指導は思考力も奪う」 

 「指導死」という言葉を造ったのは、一般社団法人「ここから未来」代表理事の大貫隆志さんだ。自身も息子を指導死で亡くし、「指導死」親の会代表世話人を務める。いじめとは違い、指導死に法的位置付けはなく、発覚後の対応も明確には定まっていない。学校教育法は体罰を禁止する一方、懲戒権は認める。大貫さんらは教師の不適切な言動を背景とする自殺や不登校事案についても、いじめ防止法に定める重大事態調査を実施し、教師の不適切な言動の定義を明確にして適切なガイドラインを作成することを国に求める。

 大貫さんは「『キャプテンをやめろ』『部活をやめろ』と言うことが、能力の向上につながるとは思えない。『指導』だからと許される風潮があるが、どうみてもハラスメントと思われる事案は多い」と強調。「指導死をなくすには、不適切な指導が違法であると明確にすること、被害を受けた生徒や家族が声を上げられる環境をつくることが大事だ」と話した。
 (稲福政俊)


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