沖縄戦の住民避難壕が土砂採掘地に 識者「戦跡で保存を」と指摘 業者「影響ないよう配慮」


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 糸満市米須での土砂採掘計画で、採掘業者が糸満市に提出した森林伐採届の開発区域内に、沖縄戦で住民や日本兵が利用した自然壕(シーガーアブ)の一部が含まれていることが分かった。土地を所有する採掘業者は「シーガーアブを破壊するわけではない」と話し、自然壕に影響が出ないよう採掘を進めると説明する。一方、沖縄戦研究者で沖縄平和ネットワーク会員の津多則光さんは「戦争遺跡として残さなければならない場所だ」と指摘する。

 12月に採掘業者が糸満市に提出した森林伐採届によると、米須の開発区域はシーガーアブの一部を含む0.76ヘクタール。過去にシーガーアブを調査した沖縄平和ネットワークによると、シーガーアブは2つの縦穴(ドリーネ)が約20メートル間隔で並び、それぞれ地下に自然壕がある。二つの縦穴と壕を一連のシーガーアブと呼ぶ。開発区域内に入っているのは北西側の壕で、地元の住民によるとシーガーアブの土地は地権者が過去に別の業者に譲渡した。現在は採掘業者が所有する。

縦穴の上から見下ろしたシーガーアブ。写真上部の奥が入り口になっている=18日、糸満市米須

 沖縄戦では、日本軍の南部撤退で米須は軍民混在の戦場となり、多くの住民が犠牲になった。「米須字誌」によると、米須出身の男性の証言として、シーガーアブには地元の7家族ほどが避難していた。米軍の再三の呼び掛けに応じなかったため、石油を流し込んで燃やしていたとの記録が残る。

 沖縄平和ネットワークなどによる過去の調査では、シーガーアブの北西側にある壕内部には、日本兵の遺骨や遺留品のほか、避難した住民が持ち込んだとみられる水がめなどもあり、軍民が混在していた様子を示す。

 津多さんは「沖縄戦を語り継ぐため、住民の証言とガマはセットで残していくべきだ」と話し、戦跡として行政が保存に取り組む必要があると指摘した。

 採掘業者は本紙の取材に対し、シーガーアブについて「採掘はしないし、壊れないように事前に検討しなければいけない。最大限の収益を上げることと、危険性の配慮に折り合いをつける」と話した。

 土砂採掘予定地は沖縄戦跡国定公園で、自然公園法で開発が規制されているが、許可が必要な特別地域ではなく、届け出を出せば開発ができる普通地域に当たる。業者から提出を受けて市は先月18日、県に開発を届け出た。県の担当者は「断定はできないが、今月末か来月初めまでには受理通知を市と業者に送付する」と話す。

 県が届け出を受理すれば、業者が採掘に着手することになる。

<関連ニュース>
遺骨探し出す具志堅さんに同行「重機ではできない」
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1206890.html

<一問一答>具志堅さんハンストへ「辺野古土砂に遺骨含む土、戦没者への冒涜だ」
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1276403.html

なぜ遺骨を掘り続けるのか 具志堅隆松さんに聞く
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-917548.html

21世紀の子も「証言者」 足元の遺骨が刻むメッセージ
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1243370.html

<動画>普天間飛行場はなぜ密集地にあるのか
https://ryukyushimpo.jp/special/entry-514065.html