prime

観光客、有事には帰宅困難者に…「災害に強い観光」県は指針まだ示せず<変革沖縄経済>13


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
感染症と自然災害などの複合災害に対処するために「平時からの体制構築が重要だ」と話す観光危機管理研究所の鎌田耕代表理事=9日、那覇市小禄の沖縄産業支援センター

written by沖田有吾

 コロナ下で最大震度6強の大規模な地震と津波が発生し、約5万人の観光客が被災。観光客の所在や健康状態をどのように把握し、避難所や帰路に就くための空港までどう誘導するか、帰宅させる優先順位を誰がどう決定するか―。4日、県内自治体の観光担当者らが参加したワークショップでは、コロナ禍が収束していない段階で大規模な自然災害が発生した場合を想定して、議論が交わされた。

 13日に福島、宮城両県で震度6強の地震が起きたように、沖縄でも大規模な自然災害がいつ発生するか予測ができない。観光危機管理では、感染症に台風や震災といった自然災害などが重なる「複合災害」への対応を想定しておくことも求められる。

 災害や危機の発生時、事業者には顧客や従業員の安全を守る安全配慮義務が課せられる。沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)で観光危機管理を担当してきた経験を持つ、観光危機管理研究所の鎌田耕代表理事は「観光事業者や行政は、コロナ禍で観光客を受け入れる以上、複合災害を想定して準備することが求められる。被災時に災害リスクと感染リスクをてんびんにかけなくてもよいように、事前に準備しておくことは大前提になる」と指摘する。

 土地勘がなく、地域とつながりがない観光客は、災害時に要支援者となりやすい。特に島しょ県の沖縄では、空港などの交通インフラが損なわれると、観光客は全て帰宅困難者となる。避難所で備蓄する食料や感染症対策品などの負担を軽減するためにも、被災した観光客をいかに速やかに帰宅させるかが最重要となる。

 新型コロナによって沖縄観光が甚大な影響を受けた2020年でも、373万人の入域観光客数があった。観光客の平均滞在日数3.7日を加味すると、単純計算で1日3万人以上の観光客が県内にいることになる。新型コロナの感染拡大を防ぎながら円滑に観光客を帰路に就かせるためには、あらかじめ帰宅の優先順位を決めて空港での滞留を防ぐなど、事前の想定と準備が不可欠だ。

 ただ、県はコロナ禍での複合災害発生を想定した行動指針などを明確に示せていない。県の担当者は「現状ではコロナ禍への経済対策などを優先していて、災害対応への具体的な方針は示せていない。被災時には観光事業者の協力も不可欠だが、機運は高まっていない」と話した。

 災害発生時の対応は、長期的な観光産業の復興、復旧にも直結する。事前の準備不足によって大きな被害が生じれば、沖縄観光のブランドを傷つけてしまい、結果的に観光収入が伸び悩むという負のスパイラルに陥りかねない。

 01年の米中枢同時テロの後には、風評被害で落ち込んだ観光客を取り合うために値下げ競争が生じ、観光客の消費単価が交通費や宿泊費を中心に大きく減少するなど、ダメージが長引く経験をした。

 一方で、県内で麻疹(はしか)が流行した18年度は、県とOCVBが連携して問い合わせの対応や正確な情報発信などに取り組んだことで損失は抑えられ、観光消費単価は前年度比0.7%増となった。県の保健部局とOCVBが、平時から情報交換をしていたことが大きかった。

 鎌田氏は「いつでも次の感染症や災害は起こりうる。ただの復旧ではなく、予期せぬリスクに強い観光を目指して計画を練る必要がある。平時から人、物、金を充てて体制を整備することや、顔の見える関係を構築し、機関間の連携を強めることが重要だ」と指摘した。

【関連記事】
▼来年元日は既に満室「百名伽藍」の逆転発想
▼プライベート機と独立ヴィラで3密とは無縁「ジ・ウザテラス」
▼ハイアット、星のや…ブランドホテル進出の商機と懸念
▼「体力持つか…」老舗・沖縄ホテルを襲うコロナの逆風
▼脱観光業「宿泊客ゼロでいい」ヤンバルホステルは人生を提供する