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「子どもを理由にするな」発言に衝撃 「円満な議会」のはずが…<「女性力」の現実 政治と行政の今>13


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
「若い女性が議員になった時にまた同じ壁にぶち当たる」と語り、環境整備の必要性を挙げる宮里歩氏=北谷町内

written by 座波幸代

 北谷町議会は定数19のうち5人が女性だ。女性議員比率は26・3%と、県内の町村議会の平均8・2%(2019年12月現在の総務省調査)を上回る。15年7月には全国の流れを受けて会議規則を改正し、「議員が出産のため出席できないときは、日数を定めて、あらかじめ議長に欠席届を提出することができる」という、女性議員が産休を取得できる規定を設けた。男性議員も積極的に育児参加できるよう、議会を欠席する理由に公務や病気と併記し「配偶者の出産補助」の文言も入った。

 13年11月の町議補選で、「子育てしやすい町づくり」を掲げた宮里歩氏(42)が34歳で初当選して以降、議員活動と出産・育児の両立を支えようという環境整備が広がった。

 宮里氏は17年5月に第1子を出産し、県内で初めて議員として産休を取得。子育て中の議員も活動しやすいようにと議会事務局に相談し、議員控室を保育スペースとして利用できるよう町議会全体で支援した。その年の9月定例会で本格復帰した宮里氏は子連れで出勤。メディアでも取り上げられ、北谷町議会の取り組みは話題になった。

 「子育て中の女性の声が政治の場にあるのとないのとでは議論の内容が異なる。若い有権者も議会を身近に感じてもらえると思う」。議会の円満な雰囲気を誇りに思った。

 だが3期目に入り、議会内の空気の「変化」を感じる。「本音が今になって聞こえてきて、『壁』にぶち当たっている」と語る。

 18年9月、第11代議会の委員会構成を決める場。常任委員会、特別委員会、議会運営委員会と3委員会に所属する宮里氏に、別の委員会にも入るべきだという声が上がった。「三つが限界」と伝えると、子育て中の男性議員が言い放った。

 「子どもを理由にするな」

 言葉を失った。子育てを理由に断ったわけではないし、そんなことは一言も口にしていない。会議後、「気にするなよ」と声を掛けてくれた保守系の男性議員の言葉に救われたが、ショックは大きかった。

 「言葉のハラスメントが横行している。子どもを育てているのであれば、男性でも女性でも、その大変さや状況は分かると思う。なぜそんな発言ができるのか」

「『北谷町議になりたい』と思う女性が増えるような環境をつくりたい」と語る新垣千秋氏=北谷町内

 委員会の県内視察に子どもを同行させたいと提案し、議論した時も難航した。「あの時(子連れ出勤に)賛成しなければよかった」との声が聞こえた。同じ子育て中の人でも、男性にとっては議会活動や視察に支障はないのに、なぜ女性は難しいのか。

 6期目のベテラン、大浜ヤス子氏(71)は比較的若い世代の男性議員の乱暴な発言が気になるとした上で「男性議員は結局、妻が子育ての多くを担っている。そこで男女の差が出てくる」と指摘する。

 1期目の新垣千秋氏(45)も疑問を持つ。北谷町議会では現在、議会改革特別委員会で議会基本条例の制定に向けて議論中だ。多様性の尊重や、議会活動と育児・介護等の両立に向けた環境整備を条文化したいと話し合う中、男性議員から「育児、介護は特別なものではない。当たり前のことだから書く必要はない」と指摘された。

 新垣氏は議員になる前、会社員として貿易事務の仕事を15年続けてきた。「会社規定でも有給休暇を使う際は、育児、介護の文言が入る。議会でも明文化することで、町民に分かりやすく、女性も育児をしながら議員ができると思ってもらえる環境を作りたいのだが」。同じ子育て中の同世代の男性議員でも、認識の差を感じる。

 子育ての経験を町の施策に生かしたいと思う中、宮里氏はジレンマを感じている。「次に若い女性が議員になっても私と同じ壁にぶち当たるのは目に見えている。環境を整備しないと、議員になりたいという女性は増えない」


 世界的にも遅れている日本の「ジェンダー平等」。玉城県政は女性が活躍できる社会の実現を掲げ、県庁内に「女性力・平和推進課」を設置しましたが、政治や行政分野で「女性の力」を発揮する環境が整わない現状があります。女性が直面する「壁」を検証します。報道へのご意見やご感想のメールは、seijibu@ryukyushimpo.co.jpまで。ファクスは098(865)5174。

 

 

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