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ダイビング「安売り競争」脱却へ 温水シャワーや安全・多言語対応 マリンハウスシーサー<変革沖縄経済>15


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ダイビングのトレーニングに取り組むシーサーの社員ら(シーサー提供)

written by中村優希

 沖縄観光の人気アクティビティーを扱うマリン業界は、コロナ前まで業者が乱立し、安売り競争が激化していた。サービスレベルや安全性の低下などの問題につながっていた。ダイビング業の県内大手マリンハウスシーサー(那覇市)は、安売り競争からの脱却を図っている。

 38年前に沖縄でダイビング業を始めた、シーサーの稲井日出司代表は「38年前と料金はほとんど変わっていない。むしろ下がっている」と話す。県内のマリン業界は安い値段で客を取り合い、収益が上がらない状況が起きていた。

 水難事故につながりやすいアクティビティーでもあるため、事業者による保険加入や自動体外式除細動器(AED)など安全装置の確保、機材のメンテナンスは必須となる。だが、商品価格を下げるために、そうした投資をおろそかにする業者などもいた。

 シーサーでは、安全性の高いサービスを維持しながら、「良いサービスをより安く」という方針で販売してきた。だが、それでは正社員率や従業員の給料を上げるには限界があった。

 稲井代表は2年ほど前から、価格の引き上げとサービスレベルの向上を会社のテーマに掲げた。5年後に商品価格を15%、10年後には30%の値上げを目指している。第1段階として、2021年4月から、ダイビングプランの料金改定に踏み切る。各商品とも一律で千円ずつ値上げする。薄利多売から、1人当たりの単価向上を目指す。

 価格を上げる分、ボートにトイレや個室の更衣室、温水シャワーを取り付けるなど快適に過ごせる設備投資をしてきた。また、年1回は営業を休み、事故のシミュレーションなどの研修を実施するなど、安全性向上にも取り組んできた。今後、全社員の定期的なPCR検査のほか、外国語が話せるスタッフを採用して、多言語対応を図るなどサービスの質を高めていく。

 稲井代表は「(値段が)高くても、丁寧で安全に、いかに顧客満足度を上げるかだ」と話した。

 マリン業界の安全性の向上に向けて、条例改正の動きもある。県警は、マリン事業者や遊泳者の安全確保のために定められた「県水上安全条例」の改定に動き出した。

 同条例は1993年に制定されて以降、内容は変わっておらず、観光客の増加や水難事故の発生件数の増加を背景に、現条例では安全が保たれない面も出てきていた。

 県内のマリン事業者の届け出件数は2177件で、条例施行時の5・6倍に増加している。2018年の県内の水難事故の発生件数、死者数、水難者数はいずれも全国ワースト3位以内となっている。

 開会中の県議会2月定例会に提案された条例改正案は、これまで営業の届け出が必要なく、事故が多かったシュノーケリングを「シュノーケリング業」として新たに規定するほか、届け出業者をチェックして悪質業者を排除できるようにするなど、8項目を改正する予定。議会の承認が得られれば、4月から施行される。

 県警の担当者は「観光客や事業者が増えてきて、条例の内容が時代にそぐわなくなってきた。健全な業界にするために条例改定に取り組む」と話した。

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