金城真次 理由が思いつかないくらい好き<清ら星―伝統組踊の立方>


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組踊「孝行之巻」よりおめけり

 眉目秀麗、舞台に出れば自然と視線が奪われる立ち方。一方で主張もし過ぎず、作品世界に静かにたたずむ謙虚さも併せ持つ。

 4歳で琉球舞踊を始め、「理由が思いつかないくらい好き」と芸の世界にのめり込んだ。小学生から沖縄芝居で子役として出演し、組踊には、国立劇場おきなわの開場記念公演で高校生のときに初出演した。

 芝居の舞台では登場すれば拍手が起きる「花形」。化粧一つで三枚目にも早変わりする。役のえり好みはしないが、一方でケチャップをはじめ洋食の味付け全般が苦手など、食べ物の好き嫌いが多い一面も持つ。

 文学作品のように台本を楽しみ、行間を読んで役を練り上げる。柔和な素顔と対照的な、芸への鋭いこだわりがファンを魅了する。

 きんじょう・しんじ  1987年豊見城市生まれ。91年に谷田嘉子・金城美枝子に師事。県立芸大大学院音楽芸術研究科舞台芸術専攻琉球舞踊組踊専修修了。国立劇場おきなわ組踊研修修了生。2020年に県指定無形文化財「琉球歌劇」保持者に認定。

 演目と写真説明  組踊「孝行之巻」。玉城朝薫の五番の一つ。父を亡くして貧しい生活を母と送るおめなり(姉)、おめけり(弟)きょうだいは、ある日大蛇を鎮めるためのいけにえを募る高札を見つける。写真は、家族のために自らを犠牲にする決心をしたおめなりを、おめけりが押しとどめようとする場面。命を花に例え「先に咲いた花が散るのが常だ」と諭す姉に対し、おめけりは「先に咲いた花でも嵐が吹いて散ることがある」とすがる。朝薫作品の中で最も対句が多く、みやびな言葉のやりとりでも聴かせる。

 

第一線で活躍する中堅・若手の組踊立方の魅力を伝える新連載「清(ちゅ)ら星(ぼし)―伝統組踊の立方」。将来、沖縄が誇る伝統芸能の第一人者となる立方の貴重な今を切り取ります。写真撮影は国立劇場おきなわをはじめ、数々の舞台を撮影している大城洋平さんです。

新型コロナウイルス感染症の影響で舞台活動や日々の生活にも制限が続いています。観劇に行きたくても行けない組踊ファンや、日々を懸命に過ごす人々の心を少しでも癒やせれば幸いです。