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<書評>『清ら星―伝統組踊の立方』 役者を通し写真で親しむ


<書評>『清ら星―伝統組踊の立方』 役者を通し写真で親しむ 『清ら星―伝統組踊の立方』写真・大城洋平、文・藤村謙吾 琉球新報社・2970円
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 本書は2021年から約1年半、琉球新報芸能面で連載した本書題名の写真企画を基に、加筆修正したものである。写真は琉球芸能の撮影を多く手掛ける大城洋平氏、役者へのインタビューは新報社の連載時の芸能担当、藤村謙吾記者が行った。

 本書の前半は現在の伝統組踊を牽引(けんいん)する中堅立方(たちかた)15人のプロフィールとインタビュー、そして舞台写真と化粧風景、オフショットから構成されている。立方はそれぞれ13の組踊作品に登場する役に扮装(ふんそう)しており、それぞれの衣裳や所作、舞台の美しさが、役者の為人(ひととなり)とともに味わうことができる。このように立方、そしてその写真に焦点を当てた組踊関連の書籍は本書が初である。ビジュアルから組踊を感じていただき、役者を通して組踊公演に親しむという本書の狙いは、本書「はじめに」でも触れられているように、「組踊が社会の潤いになってほしい」という思いが企画に良い形で結実していると感じられる。

 本書後半は「資料編」として、鑑賞の手引きとなるイラストを交えた「組踊の仕組み」と、これまで伝統組踊を支えてきた先達の紹介、そしてこれからの継承について人間国宝(組踊立方)の宮城能鳳氏と伝統組踊保存会の眞境名正憲氏へのインタビュー、古典組踊と新作組踊作品一覧、国指定重要無形文化財「組踊」保持者一覧が収録されている。

 これらはインタビューを除き、11年に琉球新報社が出版した『世界の至宝 組踊』から抜粋、修正して掲載されたものである。鑑賞の手引きとしては適切なものと思われるが、組踊研究者としては作品一覧について、大城立裕氏の「花よ、とこしえに」のみの追加だけにとどまっている点に残念さを感じる。11年から現在までに新たな古典組踊が発見され、新作組踊も誕生した。それらが反映されていればより充実した内容になっていたであろうし、「入門」的な位置付けである本書の役割を大いに果たしたであろう。

 しかしながら、本書には11年に「若手」と紹介されていた立方が中堅立方として掲載されており、それだけでも伝統組踊の継承が着実になされていると喜ばずにはいられない。

 (鈴木耕太、沖縄県立芸術大准教授)


 おおしろ・ようへい 1978年生まれ。舞台写真家として組踊、琉球舞踊、沖縄芝居などの舞台撮影を中心に活動。

 ふじむら・けんご 1983年京都府出身。2008年琉球大学卒。12年琉球新報入社。統合編集局報道本部暮らし報道グループ那覇・南部班記者。