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空手ツーリズムは沖縄発のオンラインで世界に コロナ後見据え「種まき」期間<変革沖縄経済>17


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アゲシオジャパンが開発した空手オンラインセミナー。各国の支部長らが、形の注意点などを熱心に聞いた=1月23日、那覇市安里の沖縄剛柔流空手道総本部順道館

written by沖田有吾

 道場に設置されたカメラに向かって、沖縄剛柔流空手道総本部の金城常雄副理事長が、基本的な形の動作や呼吸の注意点などを英語で説明する。1月23日、那覇市安里の順道館で開催された空手オンラインセミナーには、国によっては早朝の時間帯にもかかわらずアメリカやヨーロッパ、南米、アフリカなど、海外18カ国・地域の空手家105人が参加し、一挙一動を見逃すまいとモニター越しに真剣な視線を送った。

 空手家専門の旅行社、アゲシオジャパン(那覇市、上田健次郎社長)が開発した空手オンラインセミナーサービスでは、沖縄の道場と世界各地をビデオ会議システム「Zoom」でつなぐ。海外道場の支部長などが、弟子に教える際に注意するポイントを再確認している。金城副理事長は「本来は顔を合わせて交流するのが一番だが、今の状況で何もしないと中ぶらりんになってしまう。100%は無理でも、チェックポイントだけでもしっかり伝えていきたい」と話す。

 空手発祥の地として、沖縄は世界中の空手家のあこがれとなっている。歴史や伝統という価値とともに、沖縄観光にとっても、他地域にはない世界で唯一のブランドだ。世界に1億3千万人いると言われている空手家や愛好家を迎え入れる「空手ツーリズム」は、沖縄観光の成長株として期待されていた。

 沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)は2020年10月に空手ツーリズムの特設サイトを立ち上げ、アゲシオジャパンなどとともに造成した商品を紹介している。

 コロナ以前、海外の支部道場からは、稽古や昇段試験などで、空手家が沖縄を定期的に訪れていた。県の資料によると、空手を目的とした沖縄への旅行者は、欧米豪などからが多く、平均滞在日数が約11日と長いのが特徴だ。OCVBの田口修由コーディネーターは「海や自然という魅力に、文化と歴史を併せ持つ空手を掛け合わせることで沖縄観光の魅力をさらにパワーアップできる」と話す。

 アゲシオジャパンは、19年に空手の盛んなヨーロッパへ3回にわたって営業に出向き、20年の集客に向けて取り組んでいた。しかし、新型コロナウイルスの拡大によって国をまたいだ人の移動がほとんど途絶えたことで、受け入れ予定は全てキャンセルを余儀なくされた。それでも収束後を見据えて、空手の魅力を伝える新たな商品開発に取り組んでいる。

 オンラインセミナーは1回60~90分で、参加料3千円のうち50~70%を道場に還元する。約15回の試験を重ねて、昨年10月に有料サービスを開始。これまでに県外道場を含め12回実施し、約500人が参加した。海外道場の支部長など、教える立場の空手家を対象としてきたが、一般の空手家向けのオンライン体験講座も開始した。

 上田社長は「収支で言えば赤字になるが、伝統空手から離れていかないようにつなぎ止めていきたい。道場のサポートと、我々の存在を海外の空手家に知ってもらって信頼してもらうことで、コロナ収束後の種まきにもなる」と話した。

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