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女性だから「ジャンヌ・ダルク」ですか? 小さな違和感、声を上げ<「女性力」の現実 政治と行政の今>14


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「女性が挑戦しやすい社会にするために、小さな違和感でも声を上げていきたい」と述べる石嶺香織氏=1月、那覇市

written by 梅田正覚

 2月に投開票された浦添市長選を巡り、本島南部自治体の60代男性議員が昨年末、立候補した30代女性候補について自身のフェイスブック(FB)に「浦添のジャンヌ・ダルク」とたたえる投稿をした。この投稿を見た宮古島市の元市議、石嶺香織氏(40)は「偶像化されるのは政治の世界に女性が少ない証し。『オッサン的視点』からの発言だ。若いとか女性だからではなく、政策など本質を見てほしい」と考え、議員にFB上で違和感を訴えた。石嶺氏からの反論を受け、議員はジャンヌ・ダルクの文言を削除した。

 県内外で政治の世界に足を踏み入れる女性を15世紀のフランスの女性軍人「ジャンヌ・ダルク」に例えて称賛する例は多い。

 男性議員は本紙の取材に対し、画家ドラクロワが描いた絵画「民衆を導く自由の女神」のイメージを女性候補に重ね合わせて投稿したと説明した。「若いとか歴史的な経緯などは関係ない。他意があったわけではなく、候補者が立ち上がった印象をぱっと思いついただけだ。不快に思う人もいるので削除した」などと釈明した。

 石嶺氏が投稿に違和感を抱いたのは、自身も2017年1月~18年10月にかけて宮古島市議を務めた時にジャンヌ・ダルクと評された経験があるからだ。当時、同市への陸上自衛隊駐屯地配備計画の賛否で島が揺れており、石嶺氏は計画反対の立場で出馬した。

 石嶺氏は「民主主義社会で政治に声を上げることは当たり前なのに、女性だと『女神』『マドンナ』ともてはやすのは変だ。言われた本人からすると革命を起こそうというわけではなく、生活のために当たり前に声を上げただけだ」と疑問を呈した。

 石嶺氏は当選証書授与式後、当時0歳の子どもが待機児童だったため、議会事務局に預け先を相談した。偶然その場にいた本島中部自治体の年配の男性議員が放った言葉が忘れられない。「子どもを見るのは親の責任だろう」。預け先は簡単に見つけられなかったが、何とか無認可保育園を探して議会に臨んだ。

 当時市議会で女性は石嶺氏一人だけだった。保守系が多い同市議会で自衛隊配備反対を主張したため、議場では頻繁にやじを浴びた。任期中、自身のFBに自衛隊に関する投稿をしたことで炎上。議会では17年3月、辞職勧告決議が可決され、インターネット上では誹謗(ひぼう)中傷が渦巻いた。

 この動きに呼応するかのように、産経新聞は決議翌日、石嶺氏が「収入条件を超えているのに公営団地に入居した」などとする記事を掲載した。すぐに同社に抗議文を送ったが、回答はなかった。精神的に追い詰められ、それ以上の行動ができなかったが、20年9月に記事はデマだとして取り下げと損害賠償を求めて同社を提訴し、係争中だ。

 政治の世界で浮き沈みを経験してから4年がたった。「議会では男女比が圧倒的に偏っていて、女性が挑戦しようとすると心理的にも負担が大きい。男性優位の議会で果たして今多くある問題が解決できるのか。女性が政治に挑戦しやすくなるように、女性差別や小さな違和感に声を上げていかないと社会は変わらない」と語った。


 世界的にも遅れている日本の「ジェンダー平等」。玉城県政は女性が活躍できる社会の実現を掲げ、県庁内に「女性力・平和推進課」を設置しましたが、政治や行政分野で「女性の力」を発揮する環境が整わない現状があります。女性が直面する「壁」を検証します。報道へのご意見やご感想のメールは、seijibu@ryukyushimpo.co.jpまで。ファクスは098(865)5174。

 

 

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