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イメージアップのための女性候補?手振り中にデートの誘い…女性候補が経験した選挙<「女性力」の現実 政治と行政の今>15


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(左)「突き詰めると教育だと思う。性別や年齢に関係なく、チャレンジできる意欲を支えるベース、教育が必要」と話す田中美幸氏=那覇市のとまりの保育園 (右)地域への恩返しもかねて「子ども食堂」の運営などに取り組む山田マドカ氏=那覇市内

written by 座波幸代、吉田健一

 子育て中の女性の就労支援に取り組む弁当店の起業や、仕事と育児の両立を応援するNPOの設立、キャリア教育などを通して、社会課題の解決に取り組んできた田中美幸氏(48)は2013年、那覇市議選に立候補した。

 それまで行政と連携しながら、働く母親の「当事者目線」で活動を重ねてきた。だが「自分たちが小さな活動をしていっても広がりが見えない。行政の仕組みや役所のサービスに『こんなのがあったらいい』と思う施策を直接提案してみたい」と決意した。

 目指したのは「迷惑の掛からない選挙」。市民の一人として、選挙の時だけ街宣車で名前を連呼する様子を見ながら「今までの政治家は何をしてきたのか分からない」と疑問だった。市NPO活動支援センターやワークライフバランスの講演活動などを通して、人脈も広がり、実績を見てほしいと思った。田中氏の活動や思いに賛同する支援者が集まり、SNSも活用しながら選挙戦に取り組んだ。

 ある日、年配の男性が自宅に押し掛け、子どもたちにまくし立てた。「母親に何ができるんだ」「他にやることがあるだろ」。近所の住人がすぐにおかしいと駆け付け、事なきを得た。

 立候補時の届け出は自宅住所を記載しなければならず、その年配の男性は大人が不在時に押し掛けてきた。「もし事故でも起きたら危なかったと思う」と振り返る。

 「女のくせに」と言われる場面を何度も経験した。弁当店を始めた時は、ブログなどに誹謗(ひぼう)中傷の書き込みも多かった。「理想論を掲げてもうまくいくわけない」。屈折した言葉を書き込むのは男性が多かった。一方で、寄付を申し出る男性もいた。「母親の頑張る姿を見て、女性の苦労が分かる人は応援してくれたのかなと思う」と語る。

 選挙は落選した。その後、ある政党から2度、県議選出馬の打診があった。「知事選とセットで子育て中の女性が出るとイメージが上がる」。そんな思惑に幻滅し断った。「結局、お飾りだなと思った」。性別を問わず、きちんと能力を見てほしいと考える。

 仕事と育児の両立支援に取り組んできた経験から、現在は保育園運営をしながら、産後ケアの企画を温めている。新型コロナの影響で「何かしら見えないプレッシャーにつぶされそうなお母さんたちが多い」と日々感じる。

 保育施設が子どもの体調不良時の預かりや食事の提供を担い、母親が心の余裕を持てる「よりどころになりたい」と語る。「時代が変わっても同じように助けを求めている母親たちは変わらない。行政を待っていても進まない」と現場からできることを考えている。

 昨年6月の県議選に出馬した漫画家の山田マドカ氏(41)は街頭で手ぶりをしていた時、通行人の男性から「デート」に誘われた。怒りがこみ上げた。「ばかにされている気がした。私は真面目に社会を変えたくて立候補したのに」

 別の日、街頭に立つと、近所の住人とみられる男性から「邪魔だ。うるさい」と怒鳴られた。その男性はすぐ近くで演説していた男性候補には何も言わなかった。「結局私が女性だから。デートの誘いにしても同じ」と、女性を下に見る風潮に疑問を持つ。

 那覇市出身の山田氏は裕福とは言えない家庭で育った。友人宅でご飯を食べることもあり「地域に育てられた」と振り返る。現在、自身の原体験から恩返しも兼ねて「子ども食堂」の運営に力を入れる。

 高校卒業後は英国に1年半留学し、帰国後、夢だった漫画家になるため大阪の学校で学び、東京で漫画家としての活動を始めた。しかし2011年の東日本大震災で、原発が身近にある暮らしが嫌になり、東京を離れた。その後、結婚し、1男1女に恵まれた。

 転機が訪れたのは14年。母が那覇市議会の補欠選挙で当選した。それから6年後、自身が県議選に挑戦した。子どもをはじめ社会的弱者を救うには政治の力で社会のシステムを変えるしかないと考え、一念発起した。結果は落選だったが「行動しないと物事は動かない」と前を向く。


 世界的にも遅れている日本の「ジェンダー平等」。玉城県政は女性が活躍できる社会の実現を掲げ、県庁内に「女性力・平和推進課」を設置しましたが、政治や行政分野で「女性の力」を発揮する環境が整わない現状があります。女性が直面する「壁」を検証します。報道へのご意見やご感想のメールは、seijibu@ryukyushimpo.co.jpまで。ファクスは098(865)5174。

 


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