【深掘り】糸満土砂採掘 業者申請受理した沖縄県、中止の検討の根拠とは 感情論へのけん制も


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 糸満市米須で土砂を採掘しようとする業者が自然公園法に基づいて県に開発を届け出ている件で、県は中止命令などを出せるか検討を進めている。沖縄戦戦没者とみられる遺骨が見つかり、業者が名護市辺野古の新基地建設事業への参入を視野に入れていることから県民の反発が強い。県は18日の受理から30日以内に判断する必要があり、カウントダウンは始まっている。

 19日、照屋義実副知事が採掘予定地を視察した。近くのガマをのぞいた後、鉱山に入り遺骨が見つかった場所を確かめた。一行は高い位置から四方を見渡していた。視察を終えた照屋副知事は「地獄の中を縫ってたどり着き、命を絶えた人たちがいただろう。石にも血が染み込んでいると思うと、足を踏みしめていいのかという気になる」と語った。

■戦跡国定公園

担当職員から説明を受ける照屋義実副知事(手前)=19日、糸満市米須

 玉城デニー知事の意向を受け、県の事務方は採掘行為の中止を求める措置命令を出す根拠を洗い出している。現場は「沖縄戦跡国定公園」だ。県は、国立公園に関する国の処理基準を参考に「風景の保護」を理由とした措置命令が出せないかを検討している。

 遺骨自体は、国の処理基準が定める「風景」には該当しないというのが県側の認識だ。ただ同時に「『景観』という言葉がどういった意味を含むのかも検討対象だ。遺骨は景観に当たらなくても、無関係ではない」(環境部幹部)と話す。

 地元の糸満市は県への意見書で、現場周辺は慰霊塔やガマなどの戦跡が存在し、海岸線につながる緑の風景が形成されている「歴史の風景」と表現している。

 照屋副知事は「将来にわたって平和への思いを伝える意味で国内唯一の戦跡国定公園に指定された。目に見える風景と、見えない精神的な風景を重ね合わせて結論を出す」と述べた。

■世論と私権

 県の判断次第では裁判闘争の可能性もつきまとう。それでも県が強気な理由は県民世論だ。自民党県連と公明党県本も防衛局に対し、遺骨混入土砂の使用は「人道上許されない」として配慮を求めた。県議会与党内で意見書可決を模索する動きもある。

 一方、土砂採掘予定業者代表の男性は「法的瑕疵(かし)があるなら認めざるを得ないが、県が感情論で判断を下してこちらの仕事を奪えるはずがない。私の権利侵害についてはどう説明するのか」とけん制する。遺骨については「遺骨収集後も(遺骨が)残って混じっている可能性のある表土は搬出しない」と述べた。

 業者の説明に対し、県は「遺骨が混ざっていないと100%証明できるのか」(幹部)と疑問を呈す。県は届け出の審査と並行して現場の遺骨調査も進める。

(明真南斗、島袋良太、嘉数陽)