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「楽園を聖地に」ネットで越境 デパートリウボウ、需要蒸発から再出発<変革沖縄経済>23


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コロナ禍の1年を振り返る、リウボウホールディングスの糸数剛一会長=18日、那覇市久茂地のデパートリウボウ

written by 石井恵理菜

 県内唯一の百貨店「デパートリウボウ」(那覇市)は、昨年4月~5月の約3週間にわたり臨時休業するなど、新型コロナウイルス感染拡大の影響で苦境に立たされた。渡航制限で来店が途絶えた訪日外国人(インバウンド)の“蒸発”も直撃する。そうした中で今年3月、オリジナルブランド「樂園百貨店」のECサイト「樂園デジタル百貨店」が立ち上がった。リアル販売(実店舗)とネット販売の融合で、新たな顧客確保を目指す。

 「観光バブルに酔いしれている間に、世の中は進んでいた」。リウボウホールディングスの糸数剛一会長は、コロナ禍の1年を振り返りながら語る。

 非日常的で高単価なアイテムを扱う百貨店。一方で、新型コロナの影響で外出を控える人が増え、最低限の買い物で済ませるようになる。ネット販売は、コロナ禍で一気にニーズが高まった。

 糸数会長はホールディングス社長に就いた2013年、ネット販売に着手する意向を社員に示した。だが、1千万人に向かって沖縄の入域観光客数が右肩上がりを続ける中で、デパートリウボウを訪れるインバウンドも増加。ピーク時は売り上げ構成比の15%をインバウンドが占めるまでになった。中国語を話せる人材の採用や研修、カード決済整備といったインバウンド対応に追われ、ネット対応は後回しになった。

 デパートリウボウの20年度の売り上げは前年の約4割減となる見込みだ。アパレルショップのテナントも7~8社ほど退店した。

 新型コロナの前からネット販売に着手していた企業がある中、対応の遅れを突き付けられたという。糸数会長は「社長として甘かった。あぐらをかいた訳ではないが、いかにインバウンド対応で利益を最大化するかという考えに切り替わっていた」と振り返る。

 昨年9月ごろに、長年の課題であったネット販売に着手。沖縄や国内外の独自性の高いアイテムを取り扱う「樂園百貨店」のECサイトが3月にオープンし、約120アイテムを販売する。

 現在は国内向けの販売だが、次年度からは本格的に国境を越えた電子商取引「越境EC」の開発を急ぐ。樂園百貨店のメイン層でもある中国客の需要を獲得する考えだ。その後は台湾、香港での対応も広げる。

 開発に向けてECサイトの運営や仕組み作りに強い、国内の販売代行企業を探している最中だ。一方で、力を入れるのはデジタル投資だけではない。2月にはリアル店舗の売り場面積も3.5倍、アイテム数を2.5倍に広げた。

 糸数会長は「ネットで過半数を売るつもりはない。ネットで認知させて、リアルに誘導することが目的だ」と話す。デパートリウボウを「聖地」にし、沖縄旅行の際に訪れてもらうというのが描く戦略だ。電子商取引の強化は、同社が掲げる、リアルとデジタルの融合に向けた取り組みの一つとなる。

 糸数会長は「樂園百貨店を軸に、独自性の高い店舗を増やしたい。販売は世界に、グローバルで受ける商材を発掘していく」と展望を語った。

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