言葉少ない関係者…「指導死に向き合って」遺族の願いが届く日は<「指導」の果て 部活生自殺>5


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
専門部のミーティングで読み上げられた「学校における体育活動中の事故防止および体罰・ハラスメントの根絶について」と題した文書

 「何をすれば教諭に叱られずに済むのかということが分からなくなってしまい、行き場を失ったように感じられたものと推測できる」。亡くなった生徒の心理状況について、第三者調査チームは報告書でこう表現した。本来、生徒の可能性を引き出すはずの指導が、アプローチの次第で真逆の結果になる。今回の事案は、その危険性があることを突きつけた。

 報告書によると、顧問は上級生や他校の生徒らと亡くなった生徒を比較し、実力に不足があったと考えていたことがうかがわれる。それにより指導の厳しさが増した可能性があるなどと指摘した。

 名護高ラグビー部OBでプロコーチとして活動する銘苅信吾さんに、今回の問題を尋ねた。銘苅さんは「主将やめろ」などと生徒を叱責した顧問の対応について、「自分がやりたいことが優先になってしまったのではないか」と指摘した。

 銘苅さんは早稲田大のヘッドコーチを務め、現在は名護高外部コーチのほか、小中学生を対象とした「デイゴラグビースクール」も運営する。「あくまで子どもたちをサポートするために、指導はあるべきだ」。そう断言した上で、それぞれの個性を受け入れる重要性を強調した。「なぜ防げなかったのかを全体で考える必要がある。ライセンスなどの仕組みも含め教育現場で変えていかないといけない。行動に移すべき出来事だ」

 本紙がこの問題を最初に報じた後の2月。亡くなった生徒が所属していた、部活の県内大会が開催された。開会式前、男子生徒の名前がアナウンスされた。「全員で黙とうをささげ、ご冥福をお祈りしたい」。その後は、記者がこれまで取材してきた大会と同じように、選手たちは試合に備え始めた。

 当該競技の専門部部長は「(当事者の)顧問一人の問題ではなくて、全体で意識を持たないといけない」と取材に答えた。大会開催中に指導者を集め、文部科学省作成の「学校における体育活動中の事故防止および体罰・ハラスメントの根絶について」と題した文書を配った。専門部長は「遺族の気持ちを考えると責任を感じる。専門部として二度と同じ事が起こらないようにしないといけない」と言及した。

 一方、そのほかの指導者も取材したが、ほとんどが「窓口は専門部長だから」と口を閉ざしている。競技界への影響を恐れているのか、この問題に対する個人的な考えを表に出さない雰囲気が漂う。

 報告書が発表された日、取材に応じた遺族は再発防止を求めた。「『指導死』に向き合ってほしい」。その思いはきちんと届いているのだろうか。

(謝花史哲、古川峻)


【関連記事】

▼高2自殺は「部活顧問の重圧が要因」第三者委報告書 別の2人にも不適切指導

▼夜にも顧問のLINE「出ないと怒られる」イヤホン離せず

▼<独自>部活での叱責原因か 高2男子が命絶つ 主将になって以降、指導厳しく

▼高2男子死亡「なぜ自慢の息子が」前日の夜、練習をしながら涙


 さまざまな団体や組織が子どもや若者らの悩み相談に電話などで応じている。主な窓口は次の通り。

▽チャイルドライン
 (0120)997777
▽子どもの人権110番 
 (0120)007110
▽24時間子供SOSダイヤル
 (0120)078310
▽日本いのちの電話連盟
 (0570)783556
▽沖縄いのちの電話 
 098(888)4343
▽NPO法人BONDプロジェクト
 070(6648)8318