親泊久玄  「唱え」は魂に宿る…ジャズの町、19歳の出会い<清ら星―伝統組踊の立方>


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組踊「微行の巻」より鮫川の按司

 唱え(組踊のせりふ)にたけ、男役から女役まで幅広く演じ分ける。

 父・二代目親泊興照の唱えを子守歌代わりに育つ。芸術全般に興味を持ち、19歳のとき知見を深めるため米国に留学。ジャズの町ニューオリンズで、地元の子どものジャズ演奏を聞き、演奏の内に、彼らの魂に宿る歴史や思いに触れ「音楽が血から湧き出ている」と感じた。出会いは、自身に宿る「沖縄」と再び向き合うきっかけになった。

組踊「微行の巻」より「鮫川の按司」を演じる親泊久玄
組踊「微行の巻」より「鮫川の按司」の化粧をする親泊本流親扇会の親泊久玄

 

  「家にいるときはずっと唱えの練習をしていた」という父の背中を追うように、自身も自宅で唱えの研さんに励む。少しでも気を抜けば「隣室で聞いている父から、至らぬ点を指摘される」と冗談めかす。

 現在の唱えは抑揚が失われつつある、と危惧する。初代興照から父、自身へと口伝で受け継がれる唱えの継承に力を尽くす。

親泊本流親扇会の親泊久玄

 おやどまり・きゅうげん  1968年名護市生まれ。1979年に二代目親泊興照に師事。2013年に親泊久玄を襲名した。親泊本流親扇会三代目家元。

 演目と写真説明  組踊「微行の巻」。明治期の創作とされる。「微行」とは身分の高い人が、お忍びで外出すること。「水戸黄門」風の分かりやすい筋立てと華やかな舞踊で、戦前人気を呼んだ。
 狩人(かりびと)の姿で村々を巡る鮫川の按司は一夜の宿を借りた先で、父亡き後に中継ぎとして城主となった叔父・菊川の按司に、城を追い出された虎千代と出会う。鮫川の按司は虎千代のために一肌脱ごうと、菊川の按司のもとに向かう。
 写真は、鮫川の按司に向かい振り下ろされた、菊川の按司の太刀を扇でいなす場面。直後、鮫川の按司は正体を明かし、事態を解決に導く。

 

第一線で活躍する中堅・若手の組踊立方の魅力を伝える新連載「清(ちゅ)ら星(ぼし)―伝統組踊の立方」。将来、沖縄が誇る伝統芸能の第一人者となる立方の貴重な今を切り取ります。写真撮影は国立劇場おきなわをはじめ、数々の舞台を撮影している大城洋平さんです。

新型コロナウイルス感染症の影響で舞台活動や日々の生活にも制限が続いています。観劇に行きたくても行けない組踊ファンや、日々を懸命に過ごす人々の心を少しでも癒やせれば幸いです。