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「本土への果たし状だった」 上間陽子さんが語る「海をあげる」に込めた思い


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上間 陽子さん

「裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち」の著者で、琉球大学教授の教育学者、上間陽子さん。初エッセー集「海をあげる」(筑摩書房)で上間さんは、まがまがしい権力に踏みにじられる沖縄への思いをつづっている。上間さんはインタビューの中で、本著の一部を「本土の人たちへの果たし状」だと語った。米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設で、県民の民意を無視して辺野古埋め立てを強行する国や、沖縄に対して無理解な人たちへの思いなどを聞いた。また、現在取り組んでいる若年出産した女性の調査や、「裸足で逃げる」で出会った彼女たちとのその後の交流などを聞いた。 (嘉数陽)

Q:2018年12月14日、辺野古の海に土砂が投入された。本著の「アリエルの王国」では、その日を迎える前夜から、土砂投入当日のことまでを記している。

「『海をあげる』は12の話で構成されていて、『アリエルの王国は最後から2番目につづられていますが、最初に書いたのが『アリエルの王国』です。私は一時、何も書けなくなってしまいました。作中でも触れましたが、青い海が赤く濁った日から、沖縄の暮らしの一つ一つが権力に踏みにじられている感覚で、次第に書けなくなりました。引き受けた原稿をお断りしているその時に、筑摩の編集者の方が『SNSのように、日常を淡々と書いてみては』と声を掛けてくれて、それで書けるようになりました」

「『アリエルの王国』で土砂投入のその日を描き、その後に書き下ろしの『海をあげる』をつなげた。この『海をあげる』は、本土の人たちへの“果たし状”のつもりでした。『いい加減、沖縄にばかり考えさせるのはやめろ』と訴えたいのです。政治も劣悪で、沖縄の声を聞く耳を持っていない。沈みゆく国だと感じています。それでも、沈ませるわけにはいかない。沖縄だけがずっと考えたり、沖縄がずっと犠牲になるわけにはいかない。だから、やれることをやらなきゃいけない。本著『海をあげる』を記したのは、その手段の一つです。『沖縄をどうしてくれるのか』『沖縄の問題じゃない、そっちの問題なんだよ』というメッセージです。なぜ沖縄の人たちが何度も何度も基地建設に反対して、ずっと声を上げ続けているのに、今この瞬間もあの青い海に土砂を入れるのか。これを考えるのは、沖縄を差別しているあなたたちです―と」

Q:エッセーを書きながら、自身の調査も進めていた。

「現在、若年出産した女性たちの調査をしています。(21年3月末時点で)76人の聞き取りを終えたところですが、特に風俗関係の仕事をしている女性たちの生活状況は、コロナの影響で厳しさを増しており、二極分化しているように思えます。一方には時短営業・休業のお店で勤めてお金がないという人が、もう一方には感染の不安を抱いたまま働き続けている人がいます。これは別に風俗関係者ではありませんが、私が食材や商品券などを持って行ったときには、いつも通りの笑顔で『助かったー、ありがとうね』と話していた女性が、実際は食べ物も底をついていて『本当に何も買えなかった』そうです。彼女たちは苦しい状況下でも、平気な顔をして『大丈夫だ』と話すんです。きっと皆さんの周りにもいると思います。聞こうとしなければ絶対に気付けない声があるということを、一人一人がもっと強く感じる必要があると思います」

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うえま・ようこ 1972年沖縄県生まれ。琉球大教育学部研究科教授。90年代後半から2014年にかけ東京で、以降は沖縄で未成年の少女たちの調査・支援に携わる。現在は沖縄で若年出産した女性たちの調査をしている。主な著書に「裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち」(太田出版、2017)など。