【深掘り】玉城知事が糸満土砂の中止命令を見送ったのはなぜ?


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県に開発の届け出が出されている糸満市米須の土砂採掘予定地=3月17日、糸満市米須

 玉城デニー知事は16日、糸満市米須で土砂を採掘しようと自然公園法に基づいて県に開発を届け出ている業者に対し、景観の保護に必要な措置を取るよう命令する方針を示した。玉城知事は今回の対応は市民から求められた「満点」ではないものの「県として最大限取り得る行政行為」だと強調した。

 ただちに採掘を禁じる中止命令には及ばなかったものの、措置命令の文言は15日夕から大きく変わり、県議会の決議などに言及する異例の内容となった。「人道的な配慮を行う必要」などの表現も盛り込んだ。県との協議も求めている。県は「実効性が高まった」「事実上は制限命令に近い」と胸を張る。業者が従わなければ、中止命令に踏み込むことも視野に入れている。

 求める声が高まっていた採掘の禁止や制限を見送ったのは、県が少なくとも3億円以上と試算する損害賠償を請求される恐れもあるためだ。ただ、見送ったことに対する市民団体などの反発は強く、玉城県政としては痛手だ。

 ■文言調整

 措置命令の中には大きく分けて事業を(1)禁止する中止命令(2)制限する命令(3)必要な措置を命令―の3段階ある。県が相談した複数の弁護士は、措置命令自体が訴訟リスクがあると指摘し、特に中止命令は「厳しい」と口をそろえた。2月の時点で、環境部は措置命令は困難だとの見方を示していた。それでも県が措置命令に踏み切ったのは、玉城知事ら県の中枢が「県民の思いをくみたい」と考え、政治判断をした結果だった。あえて知事決裁にすることで「責任を取る」(県幹部)姿勢を表したという。

 県は15日夕、与党に対し措置命令の内容を示した。与党は大きく反発し「裁判を起こされる覚悟で、強い措置を取るべきだ」などとの意見が上がった。県はいったん持ち帰って内容を再検討した。中止や制限には至らなかったが、県は与党の指摘を受けて文言を修正。公表の直前まで調整は続いた。

 ■長期戦

 県は長期戦を見据え、実質的に採掘を制限する戦略を練っている。業者はこれから採掘予定地に重機用出入り口を設ける。ただちに大量の土砂を搬出できる状態にはない。また、名護市辺野古の新基地建設に使うには、事業者の防衛局が土砂の採取予定地に本島南部を加えた設計変更について知事の承認を得る必要がある。審査中の玉城知事は不承認とする構えだ。

 防衛省側は冷静な見方を示す。担当者は「そもそも(業者と)契約関係になく、調達先が県内外かも含めて決まっていない」と述べるにとどめた。同省幹部は既に事業を始めている業者を規制できないとし「辺野古の工事に大きな影響はない」と話した。

 与党幹部の一人は「県民の思いが県の措置命令につながった」としつつ「本当に問われているのは業者ではなく国だ。防衛局が南部地域からの土砂調達をやめるべきだ」と語った。 (明真南斗、知念征尚)

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