<書評>『沖縄企業の競争力』 不利な島嶼でのリーダー論


社会
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『沖縄企業の競争力』與那原建、山内昌斗著 文眞堂・2750円

 恵まれた環境にない企業経営を行うに当たって、リーダーはどうあるべきかについて、正面から切り込んだ書が現れた。

 本書は、過去10年間の研究を集大成した、沖縄企業の競争力に関する経営戦略論と経営史からのアプローチの成果である。

 まず、オライリー&タッシュマンが提唱する企業のダイナミック能力を形成する両利きのマネジメント論を提示する(第1章)。続いて、丹念な先行研究によって、1880年代からおよそ140年にわたる時間軸上に寄留商人資本系の会社をはじめ約150社の興亡を記す(第2章)とともに、食品加工、鉄鋼、総合小売、観光、菓子製造販売の現存する5社について、創業者の経営理念や社風まで掘り下げ、それぞれのダイナミック能力を探り当てている(第3~7章)。そして、当該5社の事例をもとに、両利きマネジメントの実現可能性に関する命題を検証している(第8章)。

 沖縄は、王国を築き万国津梁にならんとしていた時も、47都道府県の一つとなった現在も、島嶼(とうしょ)という空間的特性を持つ地域である。本書でも触れられているように、島嶼(とうしょ)は規模の経済性を持ち得ないので、企業経営を行う地域としては大変厳しい。だからといって、沖縄の企業は市場の隙間を狙った特殊な存在であったわけではない。

 著者たちの新たな切り口によって、条件不利地域において成功するリーダーの素養をさまざまなケースについて論じ、地域の経営風土をうまくダイナミック能力に結びつけた経営者像を解明している。

 企業のリーダーがいったん獲得した持続的競争優位を維持するためには、従来の経営手法を根底から変えてしまうことがあるかもしれない。持続的イノベーション(知の活用部門)と破壊的イノベーション(知の探索部門)の両軸をにらんで対処すれば、成功が収められることを、本書は強調している。

 将来訪れる好機をどうすれば自社の経営に生かすことができるのか、その方策について大きなヒントが得られるであろう。

 (大城肇・琉球大学名誉教授)


 よなはら・たつる 1956年沖縄市生まれ、琉球大国際地域創造学部経営プログラム教授。専門は経営戦略論。共著に「経営戦略の基礎」など。

 やまうち・まさと 1976年沖縄市生まれ、専修大経営学部ビジネスデザイン学科教授。専門は国際経営、経営史。著書に「日英関係経営史」。