復帰49年沖縄の課題にどう取り組むか?河野太郎沖縄相インタビュー全文【WEB限定】


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この記事を書いた人 Avatar photo 玉城江梨子
沖縄振興についてインタビューに応じた河野太郎沖縄担当相=13日、東京

 沖縄振興特別措置法などについて答えた河野太郎沖縄担当相のインタビュー全文は以下の通り。

■ポストコロナ見据えた産業を

 

―沖縄は15日で本土復帰49年。来年で50年となる。

 「いろいろなことがあった。ただ、例えば1人当たり県民所得が依然として最下位であったりとか、『子どもの貧困』の問題とか。まだまだやらければいけないところはある。ただ、県民所得の伸び率などをみると、結構高い数字を出している。労働分配率は全国平均をかなり上回っているとか、もちろん出生率だったりとか。沖縄が光っている部分が出てきている。観光は『ハワイ超え』という話もあった。クルーズ船、今回の世界自然遺産だったりというところで、観光立県の基盤ができつつあったところに新型コロナウイルスの感染拡大が来た。残念だ。相変わらず製造業の割合が低いということはある。だが、ITとか金融とか、『ポストコロナ』を見据えると、距離の壁を越えられるようなサービス産業はいくらでもある。そういう部分にしっかり力を入れていくというのが大事だ」

 「もう一つの問題は、(復帰直前の)50年前に比べて軍事力が急拡大した中国だ。尖閣諸島の問題にしろ、直接『圧』を感じるような状況になっている。その中で、今後どう考えるのか、というのは、次の10年、20年、50年を考えた時に、一つの要素にならざるを得ない。また、アジアがASEAN(東南アジア諸国連合)をはじめ経済的に発展している中で、アジアに向いている日本の表玄関という、(沖縄の)地理的にもそういう要素が強調されていくことになるだろうと思う」

―これまでの沖縄振興計画の点検を実施した。改めて評価と課題を。

 「何が効果あったかをしっかり数字的にも評価した上で考えないといけない。若干問題と思ったのは、『県民の満足度』のような指標だ。確固たる客観的なデータがないと評価しづらい。また、県内の過去と現在の比較と共に、全国平均と比べてどうなのかという視点も必要だ。沖縄の5年前、10年前と比べてどうか、というだけではなく、全国平均に追い付くという目標の立て方、狙いというのが当然必要になってくる。やはり、『子どもの貧困』のように、明らかに数値的にも問題だというのがはっきりしていて、どこから手をつければいいのかというのが、ある程度見えているものについてはしっかりやっていきたい」

 

■いかに若い人の妊娠率を下げるか

―「子どもの貧困」については、やはり相当問題視しているということか。

 「10代の妊娠率とか、未婚の妊娠率、それから、結婚しても割と早く離婚して母子世帯になっちゃう。そして大学進学率が全国平均と比べても低い。なんというか、貧困の再生産みたいなところにつながりかねないものには、やはり早く対応しないといけない。やっぱりスタートが、やっぱり若いうちに妊娠してというところが引き金になっているんじゃないかと僕は思っていて。だから、やっぱり沖縄の若い人の、例えば10代なら10代の何というのか、性教育みたいなものをちゃんとやって。ある程度、責任が持てる家庭作りというのを沖縄の若い人に徹底していく必要がある」

 「沖縄って僕の感じからいうと、何というのか、家族の支える力が強いもんだから母子世帯でも周りの人が、周りの家族が支えてくれたり、親戚が支えてくれたりみたいなことがあってやってこれている部分があるのかもしれないけれども、そこにやっぱり甘えちゃだめなんだろうな、と」

 「いかに若い人の妊娠率を下げるか、母子世帯の発生を抑えるか。どんな家庭状況でも大学進学率なんかを見たときに見劣りがしないだけの教育の機会というのが与えられているか。そこはすごく早くやらないといけないし、そこはやれば効果が出ると思う。だから『子どもの貧困』の問題というのは内閣府も県や自治体と協力して前掛かりでやっていく必要があるんじゃないかと思っている」

―若年層の早い妊娠は、出生率の高さにもつながっている面もあるが。

 「そこはあまり好評価はできないなと思っていて。出生率が高いというのは確かに僕はいい話だとは思っているが、やっぱりそりゃ明治時代だと10代のお母さんというのはいたのかもしれないけれども、やっぱり責任を持って子育てできる世帯というのが大事で、やっぱり母子世帯の割合が高い。そこがやっぱり貧困になってしまっているというのは絶たないといけないから、必ずしも褒められる話では決してない」

―自民党の沖縄振興調査会で小渕優子会長は「沖振法の単純延長は厳しい」との見方を示した。

 「今の所、僕はまだフラットで、これからのことについて何ともまだ申し上げる状況には正直ないと思っている。与党からも話は聞きたいと思っているし、調査会はかなりヒアリングをやっていくところはあると思う。正直、僕も沖縄にもう3回ぐらい行っているはずが、緊急事態宣言でキャンセルになったりして『沖縄の声』を聞けていないというもどかしさが非常にある。総点検をやったが、あれはあくまでも数字の点検だから、やっぱり沖縄の生の声をしっかり聞かないといけないと思っている。小渕さんも似たようなことを言っていた気がする。『やっぱり沖縄の声を聞かないといけないんだ』という。彼女には彼女なりにいろいろな考えがあって発言されていると思うので、そこにはコメントは差し控えたい」

―コロナ禍が今後の沖縄振興の日程に影響することはあるか。

 「観光で『ハワイ超え』と盛り上がっていたのを知っている。外務大臣、防衛大臣として沖縄に行った。外務大臣の頃はまだコロナの話はなくて、かなり観光で盛り上がっていたし、クルーズ船の話もあった。国内からも観光客が沖縄に来てくれていて。量的には相当伸びているから、あとは1人当たりの単価だったり、観光に関する産業の収益構造みたいな話だったりという議論だったのが、完全に止まってしまったのは残念だ。ただ、これが何年か後ろにタイムスリップしました、ということではなく、この間を使ってポストコロナの観光をどういう風に考えたらいいのかというのは、元に戻そうとか2年遅れた分を切ってつなぎ合わせるのではなく、質的にも変えていくことを考えないといけない。世界自然遺産も含め、いろいろなことを考えて準備をするチャンスなのかなと思っている。僕自身も沖縄のワクチン接種をしっかりやってもらわないといけないと思っている」

 

■切り札はワクチン

―コロナで県経済が打撃を受けている。

 「とにかくワクチンが切り札かなと思っている。日本でワクチン接種が進めば、あまりコロナを気にせず、観光の再開ということもできる。世界的な接種が進めば、またインバウンド(訪日外国人旅行)というところまでいくと思う。ただ、そういう中で、テレワークで東京の人口が減ったとか、コロナによって波が変わった所がある。それはもう沖縄からだってテレワークができてしまう」

 「それこそダイビングが好きな人が沖縄でダイビングをしながら、東京の大手町や丸の内の会社で勤めていますっていうのだって当然ありだろう。そこはいろいろな可能性が出てきたと思う」

 「それから、沖縄科学技術大学院大学(OIST)がやはり学究的にもかなり功績を挙げている。OISTがあるというだけでなく、そこへ世界的な研究者を集める。もっと他の高等教育機関を誘致するなんてこともできると思う。そういうところを含め、考えていきたいと思っている」

 「沖縄でいろんなことを言う人がいるが、僕はやっぱり、沖縄の子どもは英語ができて、世界とつながります、と。昔はだって、沖縄がそれこそ、中国から東南アジアまで沖縄の人ってのは、出て行ったわけだから、沖縄の若者が海外に出て行くためには今のご時世、どうしても英語というツールを持ってないとできない。それは、あれだけの米軍の基地があるそのリソース(資源)を利用しない手はない。それを大人のイデオロギーで邪魔するってことは僕は許されないと思う」

―火災で焼失した首里城の再建に向けた取り組みは。

 「工程表を作っていただいたので、工程表に沿って、しっかりやってもらうというのが大事。いろんな時代考証もやられている。オキナワウラジロガシが見つかったというのもある。沖縄の木材を使うというのも、あるべき姿なんだろう。沖縄のシンボルだから、そこは国としてもしっかりサポートしていきたい」

―浦添市の米軍キャンプ・キンザー返還跡地の開発計画について。

 「基本的に地元でいろいろ検討していただいて、それをしっかりサポートしていきたい。浦添市の松本(哲治)市長がいらっしゃった時に、シリコン・リーフ(沖縄先端実験都市)の計画を参考にしたいという話もいただいていた。そういうものも使いながら。結構広い面積が戻ってくる」

 「やはりスーパーシティみたいなものにチャレンジして、そこからまったく新しいものがスタートするような。あれだけの面積で新しいことをサラからやれるというのはそうそうない」

 「この機会を大切に、21世紀のいろんなものがそこからスタートしたぞ、と言われるような先端的なものを目指してほしいと思っている。地元で検討会も動いている。コロナで足を引っ張られるかもしれないが、しっかり計画してもらっていいものにしていきたい」

 

―具体的な支援は。

 「地元の浦添市がどういう形で築いていきたいかというのがありきだ。それが出てきたら、われわれとしてもしっかりやりたい」

 

■テレワークを追い風に

 

―県民所得の向上について課題と対策は。

 「やはり製造業が全国と比べても低いというのが今まであった。ポストコロナの時代を見据えると、製造業で行けるものもあるかもしれないが、やはり新しい金融とかICT(情報通信技術)とか、いろんな分野をどう伸ばしていけるか。それから製造でも、沖縄には大規模な工業団地があり、全く期待できないわけではない。そこはそこで頑張ってもらわないといけないと。ただ、第2次産業にこだわるだけではなく、やはり情報産業、サービス産業、付加価値の高いものを沖縄でもやれる。テレワークで東京にいなくてもいいという流れと連動させていかないといけない。東京を介さず、直接世界とつながっていくという部分もあってもいい。パイナップルにしろマンゴーにしろ、もっとマーケティングで付加価値が付けられる物がたくさんある。新しくドリアン産業が始まると聞いて、個人的には非常にうれしい。『沖縄ブランド』をいろんな意味で確立していくのが大事だ」

―「子どもの貧困対策事業」については、貧困の連鎖の根本的な解決にならないとの声も上がる。今後の事業存続の可能性と、新たな貧困対策に取り組むべきかどうか。

 「コア(中核)の原因にいかないといけない。対症療法だけではなくて根本をどうするという議論をしていかなければいけない。そういう意味で、母子世帯や子どもたちを支えていくということをしっかりやらないといけない。その問題を解決すると同時に、新たに生み出さないというところを強力に進めていく必要がある」

―先ほど発言のあった「母子家庭を少なくする」が具体策の一つか。

 「そういうところがある。コアが何なのかというところにいかないといけない」

―先ほど発言のあった「性教育」も具体策か。

 「それは要するにスタートしているのはそこの部分は相当ある。生活も安定し、親としてしっかりやっていけるという2人が家庭を持つというのは非常にいいことだ。それでも出生率が高いのが喜ばしい」

―新産業ということで、若年層の雇用創出、所得向上で具体策は。

 「一つは『沖縄の若者はみんな英語ができるぞ』という、要するに沖縄や日本のどこかで働くだけじゃなくて、行こうと思えば、世界のどこでも行ける。それが一つ大きいと思う。その機会はあるわけだから。やはり、そこに力を入れるというのは沖縄の歴史からしても『万国津梁』という伝統がある。沖縄の若者に「世界を目指せ」というのは歴史に根付いている話だ。東南アジアで仕事したって中東に行ったっていい。そういうやる気のある能力のある子どもがむしろ高校・大学から外に出るのを応援してもいい。海外で成功した人がまた沖縄に戻り、次の世代にバトンを渡していけばいい」

―やはり教育が大事か。

 「教育が大事だ。渋沢栄一の大河ドラマを見てもそうだ。いろんなものがある」

 

―教育と就労の機会を同時に創出することは。

 「OIST並みの教育機関を持ってくると当然、研究者もいるけれども、その機関を支える人も必要になる。そういう所にも雇用の機会は生まれる。外国語の習熟度が高まれば、観光産業だけでなく、いろんな産業にチャンスができる。沖縄の人がみな言語が通じるとなると、海外企業から見ても、進出先にもなり得る」

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