<書評>『ジョン万次郎 琉球上陸の軌跡』 琉球愛し、生き抜いた万次郎


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『ジョン万次郎 琉球上陸の軌跡』 神谷良昌著 琉球新報社・2145円

 本書は「琉球」を中心に、あまり知られていない琉球王国と薩摩藩の裏事情や、当時の琉球がどのような立ち位置で、先祖万次郎にどのような影響を与えたかが痛快に描かれている。そのミステリアスな琉球への上陸は彼の人生の大変重要な分岐点となった。

 前半は、14歳の漁師万次郎の漂流、大海の孤島でアメリカの捕鯨船ジョン・ハウランド号のホイットフィールド船長との出会い、アメリカ生活、漂流から10年後に鎖国中の日本に帰国すべく鎖国を突破しての琉球上陸まで。後半は、琉球上陸以降、江戸から明治への大転換期に万次郎が果たした役割と幕府との関係、冒険心と好奇心に満ちた波瀾(はらん)万丈の人生の終焉(しゅうえん)まで。誰もが「なるほど、そうだったのか」と、彼の行動に関して新しい発見をする内容となっているので、より一層万次郎を身近に感じられることだろう。直系子孫の私でさえも、興味深く伺い知る内容となっている。

 琉球は、万次郎にとって、生まれ故郷の土佐、そして青春の地のアメリカのフェアヘイブンに続き「第3の故郷」とも言える地である。鎖国の禁を破って上陸した彼を、ホイットフィールド船長と同じ隣人愛で対応した高安家をはじめとする関係者の方々。彼のアドベンチャラスな人生を支えてくれた日米両国の全ての人々に、あらためて思いをはせることができた。

 万次郎が漂流してから180年たった現在、私たちは皆不確かで想定外な出来事が多い現代社会を生きている。当時の彼も、それに勝るとも劣らないほど想定外で、予備知識も事前情報も皆無のアメリカという別世界に突然放り出された。困難苦難の方が多かった万次郎、時には荒れ狂う大海で、時には未知の国アメリカで、絶体絶命の危機を体験し想定外の事態にあっても、常に挑戦し続けた彼の生涯から勇気をもらう気がする。

 「琉球」を愛し、思いっきり生き抜いた万次郎の人生の爽快さが伝わってくる本である。

 (ジョン万次郎直系5代目・中濱京)


 かみや・よしまさ 1956年糸満市生まれ。糸満市役所勤務後、定年退職。著書に「帰米二世・ナンシー夏子の青春」など。

 

神谷良昌 著
四六判 356頁(巻頭4頁カラー)

¥2,145(税抜き)