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物語をつなげる努力 石川由美子・石川酒造場製造部課長<仕事の余白>


この記事を書いた人 Avatar photo 上里 あやめ
石川由美子氏

 石川酒造場の創業は1949年で、初期の時代はまだ機械化は進んでおらず、大きな鍋や桶(おけ)、木箱や筵(むしろ)などを使って手作業で泡盛を造っていた。その頃の道具がまだ残っており、私の入社した時にはこの道具を使ったことがある最後の職人さんが健在だった。

 その職人さんは「この道具は熱さとの闘いで…」「この作業の時には泊まり込みで作業があって…」「原料を笊(ザル)で何往復も運んで…」など、道具の使い方・苦労話を面白く話してくださった。体験した方の話はとても楽しくイメージしやすく、自分が体験したかのように私でもお客様に楽しく説明することができた。

 今は事情がありこの古道具たちは閲覧できないが、最近よく思うことがある。この道具たちの物語を語ってあげる人が居なくなると、道具たちに命が吹き込まれずただの“古い道具”になってしまうということだ。自分の代で物語が受け継がれなくなるのはとても寂しい。

 沖縄では、戦争体験者の話を聞いて次の世代につなげる活動が行われている。命ある昔話にするためには、体験者から話を聞くこと、共感した人が次の世代につなげる努力をすることがとても重要なことなのだと実感する。

 余談だが今回の原稿を書いていると、昔の記憶を掘り起こす機会や、めったに触れない古道具たちに関わる時間があった。思いが強すぎたのかなと笑いながら原稿を書き上げた。昔ばなしはやはり面白い。