基地周辺に住んでるだけでデータが取られる?土地規制法成立<記者ノート>


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written by 知念征尚

 調査の内容や対象区域、罰則を伴う行為が何かさえ政府に委任する。外国資本が防衛施設周辺の土地を購入する懸念に対処するという、目的は至ってシンプルな法律が、よもやこんな不安を増大させるものだとは思いもしなかった。処罰を伴う法律を定める権利すら、政府に授けた印象だ。

 自衛隊や米軍の基地など安全保障上重要な施設周辺や国境離島の土地利用規制法が16日未明、成立した。法施行後、こうした懸念がすぐに現実化するとは思わない。国会の答弁は重いし、一通り公簿調査をするだけでも時間を要することが想定されるからだ。

知念征尚

 問題となるのは、権力の考えが変わり、民衆に牙をむく時だ。今回の法律にその歯止めとなる実効的な規定は見当たらない。

 これまでも政府は、憲法解釈を変えて安全保障政策を推進する場面があった。政府が法律の条文上、思想調査を「排除されていない」とした以上、トップの考えが変わった時に思想調査に踏み出すハードルは、相当に低いと言っていい。

 何よりも違和感が強いのは、実際に制限を受ける住民の考えを聞かぬまま、規制が掛けられることだ。

 私の地元の本島中部には多くの米軍基地が集中する。基地周辺に暮らしているというだけで調査対象となるのは、欧米諸国の類似制度と比べても異例で何ともふに落ちない。しかも土地の所有権は常に変わり得るため、法律に基づく調査も継続的に行われる。

 悪いことをしていなければ問題ない、というレベルではなく、住んでいるだけでデータが政府機関のどこかにためられていく違和感は相当だ。国が土地を買い取る規定もある。収用と異なり義務ではないが「基地の周辺に好きで住んでいる」「嫌なら出て行け」といった沖縄に対するヘイトを増幅することになりはしないか。不安は尽きない。

 2019年には改正ドローン規制法が施行された。かたや米軍は外来機の飛来や低空飛行、夜間飛行を続けている。政府は住民への規制を次々と強める前に、米軍にルールを徹底させるべきではないのか。基地周辺住民の負担感がこの法案でさらに高まらないよう細心の配慮が求められる。

 >>【図でわかる】土地規制法案とは