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男性との賃金格差が深刻 「働く機会・結果の平等を」<「女性力」の現実 政治と行政の今>25


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女性が働き続けられないような働き方は「間接的な差別」だと指摘する成定洋子教授=那覇市の沖縄大学

 厚生労働省の2020年「賃金構造基本統計調査」によると、県内の正規労働者が受け取る所定内給与額(月額)は、男性が受け取る金額を100とすると、女性は78・7ポイントで8割に満たない。賞与などを含めると、女性は男性の7割と差は拡大する。

 沖縄大の成定洋子教授は「全国より差は小さいが、賞与を含む給与額が全国最下位であることを踏まえると、この差は深刻だ」と、県内の賃金格差の問題を指摘する。

 男女の賃金格差の背景には、女性の勤続年数が短いことや管理職に就いている割合が低いこと、女性が多い職場の賃金が相対的に低いことなどがある。女性の6割が非正規として働く県内では、短時間労働者を含む男女の賃金格差はさらに広がるという。

 「女性が自ら非正規を選択したり、管理職を避けたりしているのではないか」との見方に対して、成定氏は「そもそも選択肢があったのか」と疑問を呈す。

 出産・育児や介護、ハラスメント、賃金格差、不安定な雇用形態、長時間労働など、女性が働く上で直面する問題は山積みだ。成定氏は「機会の平等が一見達成されているように見えても、結果の平等が伴っていない場合もある」と分析する。

 「女性力」や「女性活躍」などの言葉は、無意識的に今ある女性差別を見えなくしているのではないか。直接・間接的な差別に直面しながら働く人たちに「さらに頑張れ」と声を掛けるのか、今ある差別を改善しようとするのか、改めて見極める必要があると、成定氏は指摘する。

 女性議員を増やすことを目指す「政治分野の男女共同参画推進法」(18年制定)の改正法が今月10日、成立した。セクハラ・マタハラ対策、妊娠・出産・育児・介護などと議会活動との両立を支援する体制整備などを盛り込んだ。しかし、各政党で男女候補者数の目標設定を義務化する案は自民党と維新の会の反対で見送られ、罰則のない努力義務にとどまった。

 成定氏はクオータ制を巡る議論で、「なぜ女性に議席を割り当てるのか」と問われた際、女性を同質的なものと見なして絶対化する「本質主義的」な説明が求められる傾向にあると、注意を促す。女性間の個性や違いが「不可視化」され、ジェンダー・ステレオタイプ的で、異性愛主義や家族主義的なものの見方を再生産する恐れがあるという。

 本紙の連載でも、女性議員が性別役割分業や母性を強要されたり、女性であることをことさらに強調されたりするなど、周囲から女性を一つの集団として「本質化」する視線にさらされていた。

 一方、連載を通じて、女性議員たちの差異が明らかにされたことで、女性の多様性や性別の多義性を丁寧に考える必要があることが示されたと評価した。

 成定氏は女性を巡る深刻で複雑な労働問題の解決を図るためには、個々の違いを尊重しながら、安心して働くことのできる社会のあり方について、さまざまな立場や背景から取り組むことが必要だと指摘する。

 その上で、「女性が働きやすい社会は男性にとっても働きやすい社会であるはずだ。性別に関係なく、一人一人が機会の平等とともに結果の平等を享受できる社会をつくるためには、クオータ制の表面上の数値にとどまらない、ジェンダー平等政策を実現できる、実質的な政治的代表が不可欠だ」と提言した。

(比嘉璃子)


 世界的にも遅れている日本の「ジェンダー平等」。玉城県政は女性が活躍できる社会の実現を掲げ、県庁内に「女性力・平和推進課」を設置しましたが、政治や行政分野で「女性の力」を発揮する環境が整わない現状があります。女性が直面する「壁」を検証します。報道へのご意見やご感想のメールはseijibu@ryukyushimpo.co.jpまで。ファクスは098(865)5174