【識者談話】慰霊の日の知事平和宣言 専門家意見聴取の場を 石原昌家氏(沖国大名誉教授)


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石原昌家 沖縄国際大名誉教授

 沖縄県知事が1977年の慰霊の日の「沖縄全戦没者追悼式」から発してきた平和宣言は、国内外から注目を集めている。沖縄戦以後も絶えずさまざまな形で平和が脅かされ続けてきている地から、県民の総意として発信されるからだ。

 昨年の追悼式は新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、式典会場を「国立沖縄戦没者墓苑」に移すということで問題となった。結局、95年に除幕し、世界平和の発信地となった全戦没者刻銘碑「平和の礎」とリンクした従来の場所に戻した。

 このような教訓がある中、今年は毎年触れるべきである平和の礎に心を寄せていない印象を受けた。昨年の平和宣言では戦争による全ての死没者の名前が刻銘されている平和の礎の意味にも触れていた。

 さらに軍事基地を巡る沖縄の状況について、昨年の「航空機騒音、PFOS(ピーフォス)による水質汚染等」という具体的な表現が消え、今年は単に「騒音、環境問題」にとどまった。「痛音」とまで表現される軍用機の爆音被害はもちろんのこと、発がん性、児童の発育にも影響すると言われる「永遠の化学物質」と恐れられている水質汚染などの環境問題の具体的表現が消えている。

 現在、沖縄戦の再来を想起させる南西諸島一帯への自衛隊配備と連動して、特定秘密保護法、土地利用規制法が制定された。沖縄戦体験の教訓をと言うからには、戦前の軍機保護法、要塞(ようさい)地帯法と重ねて触れてほしかった。

 総じて強く平和を希求する表現が後退した印象を受けた。沖縄県も長崎市平和宣言文起草委員会を参考にして、専門家の意見を聴く場を設けた方がよいと思う。

(平和学)