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ブラック・ジャックの沖縄 連載最終話がTV版の初回に…手塚眞のたくらみ <アニメは沖縄の夢を見るか>(15)


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挿絵・吉川由季恵

 『ブラック・ジャック』は手塚治虫の代表作の一つだが、コミック版の第81話「宝島」、第131話「青い恐怖」、最終話「オペの順番」では、それぞれ沖縄の島が舞台となった。いずれも自然環境の保護を訴えるメッセージが込められており、ブラック・ジャック自身が沖縄の島をいくつか所有しているという設定だ。その一方で第8話「とざされた記憶」では太平洋戦争に絡んで、また第46話「恐怖菌」ではベトナム戦争の背景として、それぞれ沖縄への言及が見られる。

 手塚の死後、このシリーズは何度もアニメ化されたが、手塚の息子・眞が監督したテレビ版『ブラック・ジャック』(2004―06)は、西表島が舞台となる「オペの順番」で幕を開けている。連載時の最終話をわざわざアニメ版の第一回に持ってきたのは、原作とのつながりを意識しただけではなく、当時の沖縄ブームや西表島の観光開発をめぐる訴訟問題などが背景にあったのではないか。

 このエピソードでは、自ら所有する島から西表島経由で帰途につくブラック・ジャックが、出航した連絡船内で事件に遭遇する。動物の密売人が持ち出したイリオモテヤマネコが暴れたため、船長が操舵(そうだ)を誤って船が岩礁に激突するのだ。船は航行不能となり、無線も海水をかぶってしまう。

 ブラック・ジャックは母親に抱かれた赤ん坊、絶滅危惧種のイリオモテヤマネコ、西表島の観光開発を推進する地元の代議士を相手に、3つのオペをこなす。そして後日、代議士から「医師免許を持たずに手術した」「人命を軽視した」として訴えられるのだ。これに対してブラック・ジャックは、代議士がやっかいながんに冒されていることを告げ、手術の対価として訴訟の取り下げと観光開発の中止を約束させる。

 手塚の原作では西表島の風景風物に沖縄色はほとんど感じられないが、アニメ版ではマングローブなどが描き込まれ、港の桟橋や建物も実際の風景に近い。アニメの第32話「青い海の恐怖」でも、原作にはない沖縄色が加えられていた。ブラック・ジャックが所有する三界島はハイビスカスが咲き、民家の赤瓦の屋根にはシーサーが置かれているのだ。ただし両エピソードともウチナーグチは使われず、三界島に暮らす父子の言葉は東京あたりの下町風だ。

 もちろんブラック・ジャックが島を訪れるのは環境保護のためだけではない。彼は三界島で「日没と夜明けをたっぷりと味わいたい」と口にしている。世界を股にかけて活躍する孤高の天才外科医も、やはり沖縄の離島に癒やしを求めているのだ。

(世良利和・岡山大学大学院非常勤講師)