キャンペーン報道「『女性力』の現実 政治と行政の今」では、世界的にも遅れている日本の「ジェンダー平等」について、県内の政治・行政分野の状況を報じてきた。県議アンケートは、選挙活動中のセクハラや性差別の経験、議会における望ましい男女比率などを聞き、男女の差が顕著に表れた。行政編では、県内自治体の女性管理職の割合や部署の偏在などを示し、性別役割分業や長時間労働の課題を指摘。データで現状を可視化すると共に、男性優位社会で女性が直面する「壁」を検証した。政策決定の場に女性がいない・少ない現状をどう考えるか。報道に携わった政治部(当時)の記者が取材を振り返り、印象的だったことや課題の解決策、自身の意識の変化について話し合った。
<座談会参加者>
比嘉璃子(25)=暮らし報道グループ(糸満市、南風原町、粟国村、渡名喜村担当)
西銘研志郎(30)=八重山支局長
明真南斗(30)=政経グループ(基地担当)
梅田正覚(34)=政経グループ(総務・企画担当)
吉田健一(36)=暮らし報道グループキャップ(浦添市、西原町担当)
座波幸代(46)=政経グループデスク
明 政治も行政も長時間労働で、育児や介護を想定していない「マッチョな仕組み」。その構造自体を変えないといけない。現状は仕組みを変えるのではなく、その仕組みに当てはまる人材をつくろうとしている。ひずみが生じるし、女性の管理職登用の数字も頭打ちになる。男性にはいくらでも残業させていいという風潮もあり、本人やその家族にとって良くない。
西銘 「おじさん世代」に比べれば、僕ら世代は比較的、ジェンダー平等への理解や共感はある。その人たちがステップアップしていくことで変わるという、時間による解決もあるかもしれない。ただ、僕らも「上の世代」になって変わり、旧来のおじさんと同じようになると困る。世の中が「今のやり方はおかしい」と言える風潮にならないといけない。メディアが報道する意義はそこにあると思う。
梅田 課題解決に向けた方法は二つある。クオータ制度の導入で強制的に一気に進める方法と、これまでのように一人一人の意識を変えていくやり方だ。すぐに答えは出ないが、まずは琉球新報社でクオータ制度を導入して実証実験をしてほしい。
座波 琉球大の喜納育江ジェンダー協働推進室長は「平等(equality)だけでなく、公平、公正(equity)が必要」と指摘した。既に優位に立っている人と、そうではない人への支援は違う。
比嘉 平等という考えの下に制度を作っても、その枠からもれる人たちが現にいる。制度や選挙運動の在り方を見直すことも必要かもしれない。世界を見渡すと、クオータ制を導入した国は女性が政治に加わり、男性中心社会から女性に目を向けるような政治が進んでいる。日本はもう少し何かできないか。
吉田 候補者選びから女性を入れて透明性のある選考過程にする必要がある。国政選挙や県知事選の取材をしてきたが、候補者選考の過程が見えない。候補者を決めているのは「おじさん」。選考段階でいかに女性を入れるかにまで踏み込まないと難しい。政党は候補者を公募してもいいと思う。基準を作ってやれば「見える化」される。
座波 あしき慣習を変えるのは有権者の声だ。「このままではだめ」「透明性を持つべき」と声を上げることが有効だと思う。密室の「ボーイズクラブ」が、そのメンバーしか分からないやり方で決めるのは有権者に対してすごく失礼。「フェアに決めている」と言われてもチェックのしようもない。
比嘉 市町村担当になって思うのは多選の議員の存在。若い人たちはなかなか議会に入っていけない。新しい意見を取り入れようとしない地域は、議会の質自体が落ちると取材を通して感じる。日本では落選したら仕事がないことも理由の一つかもしれない。熟練議員は行政の仕組みを知り尽くしている。引退後に職員やボランティアとして住民の相談に応じ、政策に生かす支援ができないか。
「自分にも固定概念あった」記者の告白
西銘 反響が大きかったのは現状を「変えたい」「おかしい」と思っていた人がたくさんいるということだ。県外の記者に僕らの連載を伝えたら「まねしたい」という声もあった。男性優位社会の中で「メディアも同じじゃないか」と言われるのも悔しい。みんなで取り組めば世の中は変わると思う。
明 記者としての関心分野にジェンダーが加わった。普段の取材でも自分が無意識にバイアスを持って物事や人を見ていないか注意しなければならないと意識している。自身の働き方も本気で考えないといけないと思うようになった。業務量が多くても「自分が頑張ればいい」と思っていたが家庭の負担が前提だった。多少無理をしてこなせば、自分自身が構造的な問題を再生産して、後輩にも同じことを強いてしまう。
比嘉 議会を見る目が変わり、政治家の発言一つ一つが気になるようになった。現在、担当している市町村の議会は定数に対して女性議員が少ない。一方、「生理の貧困」について女性の声を拾って、男性議員が積極的に支援策に取り組んでいる議会もある。女性議員が少ない現状では、男性議員が女性の声を拾うなど、足りない部分を補う姿勢が必要だと感じる。
吉田 自分にも「女性は家庭、男性は外で仕事」という固定概念があると気付いた。子育てをしていて「ごはんを作るのは妻の仕事」と思う点があった。妻を「手伝う」という感覚を、払拭(ふっしょく)したい。行政でも、企画や財政の部署に男性が多いのは長時間労働が根底にある。働き方を含め、固定概念を壊さないとだめだと思う。まずは固定概念を自分からなくす。自分自身から変わっていきたい。
梅田 正直に言うと、これまではジェンダーの議論を色眼鏡で見ていて関連記事も真剣に読んでいなかった。この企画に取り組めたことで「男らしさ」という社会的な観念を打ち払い、自分らしく何事も合理的に考えられるきっかけになった。世の男性には、仕事の能率や家族の幸福感を向上させたいならば、まずはジェンダーを勉強することをお勧めしたい。
「女性が政治に理解ない」男性県議の言葉に衝撃 「女性力」ネーミングの意味<「女性力」の現実 記者座談会>下
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1345751.html