芸能・文化

<書評>『沖縄―奄美の境界変動と人の移動』 移民と移動の「読ませる裏面史」

『沖縄―奄美の境界変動と人の移動』野入直美著 みずき書林・3080円

 本土復帰50年を前に、沖縄と奄美がリンクするオーラル(ライフ)ヒストリー、そして、移民と移動史、企業経営私史としても「読ませる裏面史」である。

 副題に「実業家・重田辰弥の生活史」とある。奄美にルーツを持ち、満州で生まれ、沖縄で育ち、東京で起業し、境界を超えたビジネス・ネットワークを築いた実業家の重田氏のオーラルヒストリーである。

 その重田氏の生きざまが凄(すさ)まじい。琉大、早大、中大の三つの大学に在籍した。「琉大に一番で入学した」と聞かされ「俺が一番になる大学にいてもしょうがない」と退学して早大へ。時の大濱信泉学長を退任に追い込むデモに参加し、留置場体験をしたかと思えば、無事卒業して琉球新報社に入社している。

 新聞社も1年で退社し、国家公務員になったかと思えば、それも1年足らずで辞め、司法試験を目指し中央大学へ。司法試験に落ちると中大も中退し、民間コンサル会社へ。そこで実績を上げ、評価されたら独立開業。会社が軌道に乗ると上場企業に売却し、会長職に収まり、WUB東京会長、沖縄の美ら島大使として社会活動を精力的に展開し、現在に至っている。

 失敗と成功を繰り返しながらも飽くなき好奇心と挑戦心で名を上げ、がんすらも克服する調査対象者(重田氏)のドキュメンタリー小説的な躍動感あふれる記録は、コロナ下の今こそ読み手に活力を注入してくれる。

 同時に、米軍統治時代の沖縄での奄美出身者への差別と偏見。本書は、類書の少ない「沖縄・奄美社会の裏面史」として、沖縄と奄美の歴史に横たわる暗部も鋭くえぐり取っている。

 著者の琉大准教授・野入直美氏と重田氏との出会いは19万人の県系移民が活躍するブラジルのサンパウロ。時も移民100周年の記念式典だ。「海外移民で成功者ばかりに目を向けているが、行方もしれなくなった人たちもいる」「使いたくないが移民は棄民でもあった」との重田氏の指摘に、野入氏は「境界変動と人の移動」研究の閃(ひらめ)きを得たという。

 魅力的な「重田イズム」と野入氏の筆力を堪能してほしい。

 (前泊博盛・沖縄国際大教授)


 のいり・なおみ 1966年生まれ。琉球大学人文社会学部准教授。主な著書に「異文化間教育のフロンティア」(共著)「ハワイにおけるアイデンティティ表象―多文化社会の語り・踊り・祭り」(同)など。



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