毒ガス漏れ、69年以前にも 「過去にもあった」高等弁務官の証言発見 二次移送から50年 


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知花弾薬庫で毒ガス漏れ事故が起きた69年7月に高等弁務官だったランパート氏の口述記録。事故後の夜に毒ガス漏れ事故は「初めてではない」と報告されたことを明らかにしている(我部政明氏提供)

 【中部】1969年7月8日に沖縄県の米軍知花弾薬庫(現嘉手納弾薬庫)で発生した化学兵器の毒ガス漏れ事故を巡り、この事故が米紙の報道で発覚する以前にも毒ガスが漏れる事故が起きていたことが分かった。我部政明琉球大名誉教授が入手したランパート高等弁務官(当時)の口述記録によると、事故発生後、米陸軍補給部隊の司令官だったホーナー少将から電話があり、事故の報告を受けたのに加え、事故は「初めてではなく、過去にもあった」と伝えられたと記している。米紙が報じた事故以前にも毒ガス漏れがあったことが公式に分かったのは初めて。 

 ホーナー氏は事故を起こした毒ガス兵器について「心配はいらない。船に載せて捨てる」と海に捨てる方針を伝えたとも記されている。

 我部氏はランパート氏の証言について「69年7月より前に起きた毒ガス漏れ事故についての言及は、この発言が公には初めての記録だと思うが、それ以上の詳細な記録は見つかっていない」としている。

 一方、我部氏が別で入手した機密指定を解除された米国務省公電によると、69年7月18日付で毒ガス漏れ事故を報じた米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)に対し、米政府が報道前に圧力を掛けていたことが示唆されている。公電は報道前日の69年7月17日に作成され「ジャーナルに報道を思いとどまらせるよう高いレベルで努力したが、金曜(18日)に報じるようだ」と記している。

 WSJは当時、米軍関係者25人がVXガスを浴びて救急搬送されたと報じた。米政府は事故直後、漏れたのは致死性のガスではないと日本政府に説明した。一方、報道の4日後に米国防総省が漏れたガスはVXより毒性の弱いサリンだと表明したが、サリンも致死性がある。米軍は最終的にVXやサリン、マスタードなど1万3千トンを沖縄に貯蔵していたと説明した。

 米政府が報道を阻止しようとしたことについて、我部氏は「米政府は当時、化学兵器を処分する方針だった。事故を隠蔽(いんぺい)できるのであれば隠蔽し、貯蔵の事実を伏せたまま処分するつもりだったのだろう」とした。

 一方、「発覚したことで、毒ガス撤去の『レッドハット作戦』を実行し、成功を強調する動画まで作った。華々しくすることで沖縄の心配を取り除いたとアピールする情報操作に切り替えた」と分析した。
 知花弾薬庫に貯蔵されていた毒ガスを米領ジョンストン島に運んだ71年7月15日の「毒ガス二次移送」から15日で50年を迎えた。
 (島袋良太、新垣若菜)

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