「会社がつぶれても…」　夏休みの定番「明治ファミリー劇場」に込められた思い【WEB限定】

　沖縄の子どもたちにとって夏の恒例行事と言えば「明治ファミリー劇場」だ。「ブレーメンの音楽隊」「ジャックと豆の木」など、よく知られた童話をぬいぐるみが演じるミュージカルで、1981年に始まった。一企業のメセナ事業だが、沖縄の子どもたちがミュージカルに触れる貴重な機会として定着している。40回の歴史がある公演も新型コロナウイルスの影響で2020年、21年と2年連続中止になった。中止の知らせにがっかりした保護者、子どもたちも多かったはずだが、今年はテレビで放送する。オンライン配信ではなく、費用もかかるテレビ放送を選んだのはなぜか。沖縄明治乳業にとって「明治ファミリー劇場」とは何なのか。（玉城江梨子）

　沖縄明治乳業の飲料品についている「Ｌマーク」を集めて応募すると、招待券が当たるというシンプルな消費者キャンペーンは、舞台芸術に接する機会が少ない沖縄の子どもの情操教育の一環としてスタート。毎年夏休み期間中に開催されている。当時、子どもだった人が親となり、今やおじいちゃん、おばあちゃん、親、子どもの3世代で応募、観劇する人も多い。

　ミュージカルの幕開けの時に流れる「銀河鉄道の歌」の汽笛、「シュル　シュル　シュッ　シュッ」という歌声を聞くと、幼い頃のワクワクした気持ちや、ファミリー劇場に応募するために、牛乳を飲んでＬマークを切って集めたことを思い出す人も少なくないだろう。

　沖縄の子どもたちの夏の楽しみとして定着しているファミリー劇場だが、20年、21年は新型コロナウイルスの影響で2年連続中止となった。

　沖縄明治乳業の村田紳社長は20年に中止を決めたときのことを「ショックだったし、悔しかった」と振り返る。19年は創業50年、ファミリー劇場40回を記念して沖縄本島だけでなく、宮古島市、石垣市でもファミリー劇場を上演。毎年観劇している沖縄本島の子どもたちと違って、宮古、八重山の子どもたちは初めての体験に、最初はぽかんとしていたが、幕が開くと物語の世界にどんどんのめり込み、最後のシーンでは「がんばれー」と声援を送っていた。ファミリー劇場が沖縄の子どもたちの成長にとってどれだけ大きな存在になっているかを再確認していた。

　「2年連続中止にはしない。来年は必ず」と誓い、来年の会場も押さえ、開催できる方法を模索したが、年が明けてもコロナの収束の気配は見えないことから、今年も3月に公演中止を発表した。実はその時から、沖縄の子どもたちにファミリー劇場を届けるためのプロジェクトが動き出していた。それがテレビ放送だった。

　今年は県内民放テレビ３局で「ジャックと豆の木」「オズの魔法使い」「ヘンゼルとグレーテル」の人気3演目を放送する。

　テレビ放送することが決まったものの、過去の公演は撮影していない。そのため東京で舞台を借りて劇団銀河鉄道の劇団員に実際に上演してもらい、プロのカメラマンが撮影した。通常の公演は90分だが、テレビ放送の時間に合わせるため編集もした。3作品作ったため、「費用もだいぶかかった」という。