ブラジル日系移民の強制退去を描く 映画「オキナワサントス」きょう公開 桜坂劇場


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 第2次世界大戦中の1943年、ブラジルのサントスから日系人や県系人らが強制退去させられた「サントス事件」のドキュメンタリー映画「オキナワサントス」が、31日から那覇市の桜坂劇場で全国に先駆けて先行上映される。監督の松林要樹さん(42)=西原町=は「時として戦争の加害者と被害者が表裏一体になることがある。ブラジルで起きたことは、日本がアジアでとった軍事行動の裏返しだったと考えるようになった」と語る。

「サントス事件」の映画を制作した松林要樹監督=27日、那覇市の桜坂劇場

 サントス事件は43年7月、連合国側のブラジル・サントスで日本やドイツなど敵対する国の移民が強制退去させられた事件。戦時中、ドイツの潜水艦は商船や貨物船へ攻撃を繰り返した。軍事要衝地のサントス港湾部に住む移民を「スパイ」とみなしたブラジル政府が強制退去を命じたとみられる。

 退去させられた日系人6500人の大半が県系人で、サンパウロ市の強制収容所などに送られた。松林さんは16年に現地の新聞の編集長から聞き、初めて事件を知った。同年、訪ねたサントスの旧日本人学校(現在の日本人会館)で強制退去者の名簿を見つけ、16年と18年、19年に県系人らの協力を得て撮影を重ねた。

 事件当時、子どもだった県系人らを中心に、過酷な体験や子ども心に感じた悲しみを丹念に聞き取った。取材を進める上で県系人の寛容さに助けられたという。「沖縄でもブラジルでもない『2重のアウェー』の自分をウエルカムで受け入れてくれた。それは県系人自身が差別や分断を経験してきたからだと思う」

 映画の隠れたテーマは「差別と分断」だ。「ブラジル社会の差別に向き合わざるを得なかった」と語る松林さん。今も世界で紛争や弾圧、貧困などで移民や難民となった人々が置かれる状況に心を痛める。「映画をきっかけに、移民や難民が排除される現状について考えてほしい」と願っている。