米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に向けたサンゴ移植を巡り、農相が県による許可撤回を執行停止したことに対し、県は抗告訴訟を検討していたが、見送る方針を16日までに固めた。抗告訴訟では訴訟に取り掛かっている間に移植作業が進んでしまうことや、裁判になっても県の主張の中身が審査される見込みが薄いことが背景にある。県は防衛局から受けた設計変更申請を不承認とすることで、新基地建設全体の完成を阻止する構えだ。
沖縄防衛局は農相の執行停止を受けて移植作業を続けており、県は防衛局に対して再び行政指導することや防衛局が強行する移植作業の問題点について世論に訴えていく考えだ。
玉城デニー知事は13日の記者会見で「防衛局が(高水温期や台風シーズンを避けるなど)県が付けた条件を守っていないのが明らかになっている」と述べ、改めて行政指導する方針を示していた。関係者によると、県が企画するシンポジウムでサンゴ移植の問題を取り上げるなど世論喚起の手法も検討する。防衛局が県に報告する、移植後の経過観察について結果を厳しく見ていく構えだ。
沖縄防衛局が先に作業を進めている地区の移植は約7日の作業予定だった。県が抗告訴訟に移る場合、議会の議決や論点整理などが必要になる。また、他の地区についても判決が確定するまでに移植が完了する可能性があった。過去の抗告訴訟では中身に立ち入らず、「入り口論」で県の主張が退けられており、同様の判決が出る公算が大きい。
県幹部は「訴訟をしている間に一部の作業が終わってしまう。合理性が欠けるので、別の手段で国民に訴えていく」と説明した。
防衛局は高水温期や台風シーズンを避けるよう求めた県の条件を破って、7月末にサンゴ類の移植を始めた。県は条件違反として移植許可を撤回。防衛局が農相に執行停止と審査請求をし、わずか3日後の今月5日、農相が執行停止を認めた。まだ夏場で台風も多発しているが、防衛局は6日からすぐに移植作業を再開している。
一方、防衛局が移植許可の撤回そのものを取り消すよう求めていることに伴う農相の審査は続いている。防衛局は水産庁の審理員に反論書を提出した。県側は4日に意見書を提出済みで、審査を担う水産庁は県と国の双方の意見が出たとして審査手続きを進める方針だ。
(明真南斗・塚崎昇平)