<書評>『日本近代史のなかの沖縄』 沖縄統合 帝国日本の強硬性


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『日本近代史のなかの沖縄』我部政男著 不二出版・7700円

 読み返すごとに歴史の新しい面に遭遇する魅力ある本書は著者の長年にわたる研究成果の集大成である。『日本近代史のなかの沖縄』という時空の捉え方に新鮮さを覚えた。沖縄地域史(特に近代史)は日本史学の一部という枠組表明である。

 本書の近代は1872(明治5)年の琉球藩設置から廃藩置県、1879年の琉球処分(沖縄県設置)以降、沖縄戦(争)や米軍統治下までを含むようだ。日本が帝国として世界の地位を獲得するためには沖縄地方の強力な統合一体化が必要とされ、帝国が必然的に内包する強硬性が幾多の文献に依って例示されている。

 著者は復帰前の琉球大学在任中から国立公文書館所蔵の第一級の第一次資料を用いて論文を発表しておられたが、1991年に山梨学院大学へ移籍し新たな自由の場や研究者、資料との出会い、大規模な共同研究への参加、さらに研究方法や資料調査の在り方などの恩恵を受けたという。恵まれた研究環境から生まれた本書の特徴は第一級の第一次資料(既知の資料もあるがもちろん私には大半が初見)を駆使した状況描出と為政者の心理にも分け入った考察と冷静な論理展開である。例えば、1886年7月には政府の要人が相次ぎ来県している。本書は山県有朋の復命書からそれが国防・軍事上の視察と導き出している。今日の普天間飛行場閉鎖の混迷は実に山県のこの方針にまで遡(さかのぼ)ると知った。

 また沖縄戦における沖縄人スパイ説には無理があると念を押しながら、スパイ概念は多義性があり交戦下ではスパイ行為の判定は軍人に任され、それゆえ沖縄戦争では沖縄人全てがスパイとなる状況下におかれていたと分析。沖縄人スパイ説は軍官民一体化イデオロギーがもたらした当然の帰結で、もし本土玉砕があったなら「日本人スパイ説」が成立しただろうと軍権の恣意(しい)性を強調する。本文に劣らず丁寧な注も読み応えがある。

 古典となるべき本書のあとがきにかえてでは沖縄を出自とする個人が米軍統治下で多感な時期に出会った人々から得た知的関心を育て研究者に成長していく道程がしのばれ興味深い。

 (大城道子・移民史研究家)


 がべ・まさお 1939年本部町生まれ。琉球大教授などを経て山梨学院大名誉教授。著書に「明治国家と沖縄」「沖縄史料学の方法」「地方巡察使復命書」など