<書評>『恩納村史 第二巻 考古編』 村民目線の歴史、文化


社会
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『恩納村史 第二巻 考古編』恩納村史編さん委員会

 恩納村といえば県内最大の観光リゾート村として全国的にも注目されている。本書は、この恩納村におけるこれまでの考古学上の調査成果や最新情報をもとに「村民目線での歴史、文化を考える」という趣旨で編まれたものであり、大地に埋もれた地域の歴史が平易な文章で読みやすくまとめられている。

 沖縄国際海洋博覧会開催前年の1974年に起きた仲泊貝塚を守る運動の際には村をあげて運動に参加し、ついに国道を迂回(うかい)させることで貝塚と石畳道の保全を実現させてきた村だ。考古編として刊行された本書は、文化財保護に取り組んできたこうした村民の期待に応え、また、遺構・遺物の実測図や集計データをふんだんに掲載するなど、学術的にも貴重な一書といえる。

 その内容は4部構成になっている。第1部では先史時代の琉球列島を俯瞰(ふかん)しながら恩納村という地域にスポットをあて、遺跡・遺物を通して先史時代の様子を克明に描き出し読む人を太古のロマンへと誘う。第2部ではグスク時代、近世・近代、現代の遺跡、遺構・遺物を取り上げている。炭焼窯、藍壺、石切り場跡、フール(豚小屋兼便所)、歴史の道等々。過去の物質的資料を媒介として研究される考古学は、今日では文字資料のない古い時代だけでなく近世・近代、現代とあらゆる時代を対象とするようになった。こうした最近の考古学研究の動向を踏まえてまとめられたのがこの第2部で、本書の大きな特徴といえる。

 第3部では遺跡から発見される貝や魚、イノシシ等の動物骨を介して先史時代における生業史の理解に焦点があてられている。そして第4部では恩納村の遺跡が報告される。ここでは村内の遺跡が行政区ごとに紹介され遺跡や発掘された品々が図表やカラー写真、イラストなどを使ってわかりやすく解説されており、遺跡探訪のガイドブックとして期待される。また、戦争遺跡も報告されており、平和学習にも大いに活用できそうだ。村内の家庭の本棚にぜひそろえておきたい一冊である。

 (當眞嗣一・沖縄考古学会顧問)


 恩納村史編さん委員会 知念勇委員長ほか6委員で構成。考古編専門部会は知念部会長ほか島袋春美、安座間充、崎原恒寿の各氏が委員を務めた。村内自治会、他市町村、県、マスコミ、専門家ら多くが発刊に協力した。