「行くならドイツかなぁ」。乾杯から最後の一杯までビールを飲み続ける程ビールが好きな私は、修行先をドイツにしようかと考えた。どうせ行くなら好きなビールが美味(おい)しく飲めるところがいいと思ったからだ。
とはいえドイツならドイツ語。知っている単語といえば“バウムクーヘン”くらいだ。すぐに都内にある語学学校の初心者クラスに申し込み、そして行き先をドイツ南西部のフライブルクという街にし、当時勤めていた食品分析会社を夏で辞めることを決めた。
大学こそ醸造学科ではあったが、高校で英語科を卒業していた私はドイツ語もどうにかなるだろうと高をくくっていた。語学学校ではドイツ出身の教師が分からないところを時折日本語で説明してくれるし、新しい言語を学ぶ新鮮さもあってか毎回楽しみながら授業を受けていた。
ちょうど春で花粉症に悩まされていた私はよく鼻をすすっていて、その度に先生がティッシュをくれるので「ドイツ人はなんて優しいのだ」と思っていた。これは後から現地で知ったことなのだが、ドイツでは鼻をすする行為は非常に不快なものでマナーが悪い、とされる。言葉だけでなく、その土地の文化や習慣も一緒に学ぶべきだったと深く反省したものだ。
結局簡単な数字と単語、あいさつ程度のドイツ語だけを身につけ、3カ月という約束で私は心躍らせドイツへ出発した。