<書評>『首里城を解く』 多角的な視点と知見


社会
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『首里城を解く』高良倉吉監修 島村幸一編 勉誠出版・4180円

 本書は、考古、歴史、文学・芸能、建築学・工芸の多岐にわたる分野の論考・コラムから、首里城をめぐる時・人・モノ・空間が如何に関わっていたのかを知ることのできる一冊となっている。

 紙幅の関係上全てを紹介できないが特筆すべき内容として、首里城で行われた冊封儀礼について各分野からさまざまな知見が得られることを取り上げたい。まず、建築学の視点から伊從氏の論考では、冊封の儀礼を行う場所が「正殿」から「御庭」へと時代を経て変遷したことなどを取り上げ、首里城が国内外へ王権の誇示と中華の権威を示すための装置であったと指摘しており、儀礼と空間との関わりを知ることができる。

 次に、芸能分野から茂木氏が、冠船芸能の舞台構造や装置から日本の能舞台の様式を用いていることや幕には時代を経るごとに吉祥の文様が施されることを取り上げ、舞台芸術の格式を高めつつ、国王への祝福を含めた祝儀性の要素を保持していると指摘する。氏の指摘からは、冠船芸能における組踊や舞踊のみならず、舞台装置にも「琉球国の尊厳や矜持(きょうじ)のなせる業」があることを示しており、興味深い。

 また、歴史学では麻生氏の論考で、冊封使歓待の宴について王国末期の史料などを基に、表の場で冊封使を歓待する一方、裏の場で薩摩藩の接遇する実態を明らかにし「冊封儀礼の重層性」があることを述べ、冊封儀礼を琉・中・薩の関係で捉える重要性を示唆している。

 上述した本書所収の論考は、首里城で行われた冊封儀礼から王府の外交姿勢などを空間・芸能・歴史の観点から複合的に理解することができる。他にも、本書では近代以降の首里城にまつわる散文や短歌を検討した論考なども掲載されており、各時代とともに、人々との首里城における関わりについて多くの知見が得られるであろう。

 2019年10月31日に首里城が焼失し、現在復元に向けて行政や研究者などがさまざまな取り組みを行っている。本書におけるさまざまな指摘や知見は、読者にとって首里城を多角的に知り考える機会を与えるであろう。

 (我部大和・沖縄国際大学講師)


 しまむら・こういち 立正大教授。専門は琉球文学・琉球文化史。著書に「『おもろさうし』と琉球文学」「琉球文学の歴史叙述」「おもろさうし研究」など。

 たから・くらよし 琉球大名誉教授。政府の首里城復元に向けた技術検討委員会委員長。著書に「琉球の時代」「琉球王国の構造」「琉球王国史の探究」など。