<書評>『未来への航 環境と自治の政治経済学を求めて』 「沖縄のこころ」実現への道


社会
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『未来への航 環境と自治の政治経済学を求めて』宮本背広ゼミナール編 かもがわ出版・3960円

 本書は、環境経済学の第一人者、宮本憲一先生の卒寿を記念して、金沢大、大阪市大、立命館大の歴代卒業生らによる「背広ゼミ」が編集したもので、70年に及ぶ研究の足跡をたどったものである。地方自治の現場から解決策を探り、社会資本・国家・都市・環境という新しい経済学の領域を切り開き、独自の学問体系をつくりあげた。

 その業績は実に2千点以上に及び、巻末には、著書、論文、講演録などの著作目録が網羅されている。中には、海外で翻訳され国内で所蔵されていないものまで存在。公害裁判や住民運動に関するものも含まれており、それはまさに戦後史の証言である。

 冒頭のインタビューでは、「歴史に学び、現場に行き、理論を構築する」をモットーとする自分史が語られる。全面戦争の惨禍を経験し、公害、基地、原発問題など基本的人権や民主主義の侵害に直面したことから、社会問題解決の提言の必要性を実感した。

 研究には「パトス」が必要で、その発露は沖縄への思いである。1969年に米軍統治下でベトナム戦争の最前線基地だった沖縄の土を初めて踏んだ。私有地を強制的に米軍に収用され、本島に基地が集中している現状を問題視。平和、環境、自治を重視し、「沖縄のこころ」による歴史や文化を生かした内発的発展への道を提言してきた。那覇市内の米軍基地跡地利用に際しても、SDGsを先取りした環境に優しい循環型都市づくりを提言。いまようやく沖縄振興計画の基本理念に取り入れられているが、まだ道半ばである。「沖縄のこころ」の実現は日本の未来を決する事業であり、辺野古新基地反対はその第一歩だと断言する。

 現在、異常気象は「社会的災害」となり、地球規模のパンデミックが起こっている。新自由主義グローバリズムのもとで東京一極集中がさらに進み、企業の集積利益が極大化されたが、公災害などの集積不利益も拡大し、地方圏の衰退は顕著である。地球規模の危機にどのように立ち向かうべきなのか。その羅針盤を示すのが本書である。

 (川瀬憲子・静岡大教授)


 みやもとせびろぜみなーる 金沢大、大阪市立大、立命館大の3大学の歴代の宮本憲一ゼミナールの卒業生を中心した研究会。1996年から月1回勉強会を行い、機関誌も刊行している。