たんの吸引や酸素吸入など、日常的に医療的ケアが必要な子が適切な支援を受けて育つ環境を整える、医療的ケア児支援法が6月に国会で成立し、9月18日に施行した。子や家族の生活がどう向上し、受け入れ機関はどう対応しているのか。沖縄本島中部在住の女児(4)の家族や、県内の幼稚園、こども園などの取り組みを聞いた。
女児は、産まれた時から下半身のまひや排尿、排せつ障害がある。呼吸がうまくできず1歳の時に気管を切開し、酸素吸入を続けている。日常的にたんの吸引や排せつの介助が必要だ。日々の成長を喜ぶ中でも、医療的ケアは切れ目がなく、父親(38)は「妻と交代で看ているが、睡眠は平均4時間ぐらい」と語る。児童デイサービスに預けている間が休息時間になっている。
「他の子と同じように地域で育ってほしい」と、考えていた父親。議会議員や自治体の協力を得て、女児は昨年、居住地の保育園に通っていた。本年度は自治体の予算で看護師が配置されている幼稚園に通っている。
児童デイなどで大人と関わることが多かった女児は、同じ年代の子と触れ合う経験で笑顔が増え、コミュニケーションも活発になってきたという。「(女児は)できないことも多いけど、友達と集団生活を送る中で、できることが増えていくことがうれしい」。子どものケアで仕事に就けない家族もいるため、父親は「私たちが情報発信することで、情報不足で孤独になりがちな人たちにも広まってほしい」と願う。
女児を受け入れた幼稚園はこれまで、脳性まひや全盲、ダウン症の子が在園したが、医療的ケアが必要な子の受け入れは初めてだ。両親の意向や園の方針をまとめた個人支援計画を策定したが、園の副園長は「医療的ケアも大事ですが幼育面でどう向き合うか、試行錯誤している」と語る。
大人の目線で成長を求めすぎず、言葉が出ない女児のペースを見守りながら、視線や表情で気持ちを見逃さないように気を付けている。今は、園内の施設や遊び道具を写した写真からやりたいことを選んでもらっているが、女児がしぐさなどで意思を伝えられるように模索している。
本島南部の子ども園でも下半身に障がいがあり、細い管を使って尿を体の外に排出する導尿の必要な子を受け入れている。身障者用のトイレを導尿専用スペースにし、障害児のケアの経験がある看護師の寺尾朱美さんが対応している。「病院勤務経験だけだと最初は難しく感じるだろうが、親から習い、続ければケアも難しくない」と語る。就学を見越して、導尿を自分でできるようにトレーニングも続けているという。
医療的ケア児やその家族を支援する一般社団法人Kukuruの鈴木恵代表理事によると、県内の受け入れ体制は十分ではないという。「教育機関は医療行為に不安もあるだろうが、その子にしてみれば障がいは個性。対応にマニュアルはなく、完璧にできなくても成長の助けになる」と指摘する。受け入れには看護師の配置が必要になるものの、Kukuruが県から委託を受けている「喀痰吸引等制度」を活用すれば、保育士も一定の条件の下で医療的ケアが可能になる。鈴木代表理事は「制度をうまく活用すれば、できることは増える。医療的ケア児がいろんなことにチャレンジできる環境をつくってほしい」と呼び掛けた。
(嘉陽拓也)