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ドイツで人生初の1人暮らし ヘリオス酒造ヘッドブルワー・松田あゆみ<仕事の余白>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 世界最大規模の祭り、オクトーバーフェストの開催地で有名なバイエルン州の州都ミュンヘン。私がドイツ生活で最も長く住み、そして色々なことを学んだ場所だ。

 友人と住み慣れ始めた街にさよならを告げ、独りミュンヘンへ移動した。最初の難関だと覚悟していた住居探しも楽にクリアし、人生初の一人暮らしが始まった。

 ドイツのアパートは家具付きが多く、私のアパートもベッドと机と椅子は最初から備え付けられていた。次のミッションは洋服ダンスと台所周りに必要な物を買いそろえることだった。新生活に胸を躍らせイケアへ向かった。少しでも節約しようとタンスのみ配送をお願いし、後は自力で持って帰ろうと、両手いっぱい大量の荷物を抱え店を出た私が目にしたのはただただ真っ暗な、歩けばどこかへ吸い込まれそうな一本道だった。

 仕方なく公衆電話からタクシーを呼んだ。が、待てど暮らせどタクシーが来る気配はない。30分程待った頃だろうか、ついに全ての車が駐車場から出ていき店の電気が消えた。私のドイツ語のせいか、それとも超近距離がダメだったのか(どこまでか聞かれて「駅まで」と答えていたのだ)。

 焦った私はカートを片付けているおじさんをつかまえ事情を話した。「妻が迎えに来るから駅まで乗せてあげるよ」。都会の厳しさと優しさに一度に触れた夜だった。

 がしかし、こんな洗礼など序の口なのだ。まだまだ戦いは続くのだ。