名護市への再編交付金の交付は、島袋吉和市長=当時=の米軍普天間飛行場の辺野古移設に伴う環境アセスメント調査許可を経て、2007年度から始まり、09年度まで3年で計17億円が交付された。島袋市政で副市長を務めていた末松文信県議は「ひも付きでなく、予算の枠内で一括交付金のような使い方ができる」と述べ、使い道について自治体の裁量が大きい性質を評価する。
再編交付金は再編事業の進ちょく度合いに応じて加算され、事業が完了した年度に満額に達する。国策押し付けのために地元を懐柔する“アメ”という批判に対し、末松氏は「米軍再編を受け入れる自治体への、当たり前の手当だ。米軍施設を受け入れるからお金をもらうというバーターではない」と強調する。
一方で、2010年に辺野古移設反対を訴えた稲嶺進市政が誕生すると、国は名護市への再編交付金を打ち切った。稲嶺氏は「(国は)当初は継続事業は補助するという話だったが、ゼロ回答だった」と当時を振り返る。結局、稲嶺市政が続いた2期8年にわたり再編交付金の交付はなく、名護市は既存の補助事業を活用するなどして市政運営を進めた。
防衛省が21年度に再編交付金を交付しているのは全国14市町村で、全市町村の約0・8%だ。稲嶺氏は「ほとんどの自治体が再編交付金を得ていない。それでも財政・行政運営ができなくなるようなことはない」と語り、再編交付金への過度な評価をたしなめる。
名護市への再編交付金は、18年2月の市長選で現在の渡具知武豊氏が当選したことで再開された。選挙前に防衛省は、渡具知氏が基地建設への賛否を明言しないことを巡り、再編交付金の交付には「態度表明が必要」との見解を示していた。渡具知氏が当選後に「法令にのっとって対応する」と説明したことをもって、防衛省は18年度に17年度分もさかのぼって2年分交付した。以降、21年度まで交付が続く。
島袋純琉球大教授(政治学)は「自治体が用途を提案できる点で非常に緩やかだ」と再編交付金の「自由度」の高さに言及する半面、「交付可否を決めるのは防衛省で、(国にとって)出しても出さなくてもよい。地元の協力を得るために完全に基地とリンクした交付金だ」と指摘する。
再編交付金の制度は2031年度までの時限措置となっている。また、それぞれの自治体によって交付期間は異なる。山口県岩国市など米軍岩国基地の周辺自治体への再編交付金は、米空母艦載機部隊の移駐受け入れが完了した17年度の5年後までとなっている。
島袋教授は「教育や福祉の根幹を交付金でまかなうとなれば、いつかは終わる財源であり、防衛省が拒否すれば教育も福祉も崩壊することになる」と財源依存への危うさを指摘する。
これに対し、末松氏は再編交付金の交付が終了しても、既存の防衛省補助メニューを踏まえ「基地完成後は提供施設の規模に応じ、新たな財源が発生する」と強調する。本年度までで再編交付金の交付が終了する期限となっていた岩国市では、防衛省が新しい交付金で22年度以降も交付を継続する方針を示している。 (’22名護市長選取材班・塚崎昇平)