やちむん、日常彩る品に コロナ禍でECサイト強化 育陶園・高江洲若菜社長


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「沖縄の原風景や伝統工芸を守っていきたい」と話す高江洲若菜社長(右)と忠さん=2021年12月27日、那覇市壺屋

 那覇市壺屋で300年にわたり、やちむん工房を構える壺屋焼窯元「育陶園」。新型コロナウイルス感染症の影響で観光客が激減する中、ECサイトの充実を図ったり、県内在住者向けに新たなコンセプトの商品を提案したりすることで、伝統工芸の新たな可能性を模索している。父で6代目陶主の忠さん(70)から2020年に代表権を引き継いだ高江洲若菜社長(39)は「やちむんを土産品としてだけではなく、県民の日常を彩る特別なものにしたい」と力を込める。

 脈々と受け継がれた伝統技術に高いデザイン性を持たせることで、幅広い層から支持を集める育陶園のシーサーや食器類。昨今は好調な観光業を背景に売り上げを伸ばしてきたが、長期化する新型コロナの影響で20年は店頭販売の売り上げが前年比80%減まで落ち込んだ。高江洲社長は「10年前に卸から小売中心へと業態をシフトしたことがあだとなり、観光客が来ないコロナ禍で大打撃を受けた」と振り返る。その上で観光依存型からの脱却に向け社員一丸となって試行錯誤を重ねていると説明する。

育陶園のオブジェ「鳥 tui」シリーズ(提供)

 最初に取り組んだのが、ECサイトの強化だ。県内外のファンが実店舗へ来店しなくても買い物が楽しめるよう、商品内容やレイアウトの見せ方を工夫した。その結果、小売り全体の売り上げはピーク時の19年には及ばなかったものの、20年のECサイト単独の売り上げは19年と比べ4倍伸び、数値は21年以降も堅調に推移している。

 商品開発にも新たな視点を取り入れた。土産の定番だったシーサーの製造で用いる型の技術を応用し、外部のイラストレーターの作品を落とし込んだオブジェ「鳥 tui(トゥイ)」シリーズを完成させた。従来のやちむんとはひと味違ったデザインやコンセプトを取り入れることで、観光土産のイメージを払しょくし、県内在住者にも喜んでもらえる商品を心掛けた。

 これまで観光客に人気だった陶芸の1日体験道場も、県内在住者が定期的に通えるスクール制を強化した。高江洲社長は「手作りのぬくもりを伝えたい気持ちは、今も昔も変わらない。私らしく、時代に即した形で、伝統工芸の魅力を届け続けたい」と語った。

  (当銘千絵、写真も)