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近未来の沖縄 「軍事的標的の島」色濃く描く <アニメは沖縄の夢を見るか>(22)


この記事を書いた人 Avatar photo 上里 あやめ
挿絵・吉川由季恵

 中国側に立って地図を眺めれば一目瞭然だが、太平洋への海上進出をめざす際に、九州南端と台湾の間に連なる南西諸島は目障りで邪魔なことこの上ない。逆に太平洋の覇権を維持したいアメリカにとって、南西諸島は中国を太平洋の西端に押しとどめるための格好の防波堤だ。そして日米安保を是とする日本政府はアメリカの顔色をうかがいながら、在沖米軍と核の傘の維持に努め、南西諸島の軍事拠点化を推し進めてきた。だが尖閣や台湾の火種がくすぶる中で、いざ軍事衝突が起これば、誰が真っ先にそのツケを払わされることになるだろうか。

 神山健治が監督したアニメ『攻殻機動隊S.A.C.』(2002―05)シリーズには、ショッキングな沖縄の近未来が描かれていた。物語は電脳ネットワークと人間の義体化が進む2030年代初頭と設定され、日本は第3次核大戦で中国から数度の核ミサイル攻撃を受け、東京の中心部は水没している。そして沖縄は島自体が消滅して環礁が残っているにすぎず、その沖200カイリには放射能除去プラントが設置されていた。三上智恵のドキュメンタリー映画のタイトルを借りれば、沖縄はまさしく「標的の島」となったのだ。鹿児島には「沖縄県慰霊の碑」が建立され、沖縄を消滅させた中国との友好関係に反対する抗中派のテロが発生している。

 またアニメではないが、この連載の第9回で取り上げた『あそびにいくヨ!』(2010)の原作者・神野オキナは、日中戦争を背景とした長編ハードバイオレンス小説「カミカゼの邦」を発表している。尖閣をめぐる紛争に端を発した戦闘で石垣、宮古は「殲滅(せんめつ)」され、波の上ビーチに乗り上げた中国海軍の巨大なミサイル巡洋艦が、沖合の潜水艦と連携して那覇の街を徹底的に破壊する。沖縄は再び戦場となり、日本で唯一の凄惨(せいさん)な地上戦が繰り広げられるのだ。もちろんそこには、かつての太平洋戦争における沖縄戦の構図が重ねられている。

 本作の主人公は沖縄の生まれ育ちでありながら、ヤマト姓と灰色の瞳を持つ男で、戦時下に琉球義勇軍を率いて中国部隊と戦い、勇名をはせた。物語の本編では、その戦争が終わってから1年4カ月後の東京が舞台となる。複雑な出自を持つ主人公の葛藤と憤怒を通じて、神野は「戦争を知らない日本」の姿を改めて問う。人としての義と情、欲と裏切りが絡みながら性と暴力、生と死を縁取り、その狭間に沖縄の現実と日・中・米の謀略が浮かび上がる。2017年の大藪春彦賞候補にもなった娯楽性豊かな作品であり、ぜひアニメ化を期待したい。

 (世良利和・岡山大学大学院非常勤講師)