「金と権力で分断、浮き彫りに」 辺野古移設、美謝川の水路切り替え…息巻く政府<明暗…名護・南城市長選>


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岸本洋平氏(右)の選挙応援でマイクを握り、新基地建設反対を訴える玉城デニー知事=19日、名護市宮里

 昨年11月25日、玉城デニー知事は名護市辺野古の新基地建設を巡り、国が申請していた設計変更を「不承認」とした。一夜明けた同26日、名護市長選への立候補を表明していた岸本洋平氏(49)は、県の不承認を支持する動画を短文投稿サイト「ツイッター」に投稿し、「玉城知事と連携し、新基地を止める」と強調した。

 玉城県政にとっても、岸本氏が当選すれば新基地建設阻止に向けた名護市政との「共闘」復活につながり、不承認の正当性をアピールする大きな後ろ盾になる。市長選が告示すると、玉城知事は選挙戦7日間のうち4日応援演説に入るなど全面支援を見せた。

 だが、選挙では辺野古移設の賛否に言及しない渡具知武豊氏(60)の再選が決まり、オール沖縄幹部は「辺野古移設反対の民意は根強いが、それを問う選挙にならなかった」と唇をかんだ。

 辺野古での基地建設を“黙認”する渡具知市政に国が対価として支払うのが、年額約15億円の米軍再編交付金だ。選挙戦で渡具知氏は、再編交付金を原資とした保育料・子ども医療費・給食費の無償化事業の継続を訴え、1期目の成果として市民への浸透を見せた。

 再編交付金は米軍再編事業の受け入れが条件となる。国は新基地建設に反対姿勢を示した稲嶺進氏の市長在任期間(10~18年)には、再編交付金を打ち切る措置をとっている。

 その稲嶺氏は今回、「再編交付金に頼らない」と主張した岸本氏の後援会長を務めた。岸本氏の敗北が決まると、稲嶺氏は「金力と権力によって分断された名護市が浮き彫りになった」と声を絞り出した。

 対照的に、政府関係者には安どが広がった。米軍キャンプ・シュワブ内にある美謝川の水路変更工事について、渡具知市政は「協議不要」として工事着手を容認してきた。これに対し岸本氏は「あるべき手続きがなされていない」と指摘し、市の対応を見直すことに言及していた。

 国は昨年10月に水路変更工事の関連作業を始めたが、森林の伐採や造成工事のみで目立った作業は控えていた。政府関係者は「(美謝川の問題が)選挙で論点になるので、あえて際立たせないのは当たり前だ」と解説する。

 渡具知市政の継続を受け、沖縄防衛局は月内にも水路切り替え工事を本格化させる姿勢だ。3月をめどに大浦湾側の護岸延伸にも着手する。設計変更の不承認を巡る玉城県政との法廷闘争を見据えながら、「必要な工事は着実に進める」(同政府関係者)と息巻く。
 (’22名護市長選取材班)


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