【深掘り】100人以上が辞めた旅行社も…人材流出が続く沖縄の観光業界のいま


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 新型コロナウイルスによる影響が長期化するのに伴い、県内の観光就業者数が減少傾向にある。2021年県労働力調査によると、宿泊業の就業者数は前年比21%(4千人)減の1万5千人となった。雇用調整助成金などで一定の雇用は守られてきたが、約2年間にわたるコロナ禍で企業が人員整理する事例や、業界の将来を不安視して退職した人も多い。

 りゅうぎん総合研究所は、観光客数が年間300万人程度まで落ち込んだことで、観光就業者数は約3万4千人減少すると試算している。長年従事してきた“ベテラン”が業界を離れるケースもあり、観光人材の流出が懸念される。

■収入減で離職

 県内の旅行社に勤めていた40代の男性は、昨年10月に退職し、建設業に転職した。大学卒業後新卒で就職してから21年間、観光業界で働いてきた。務めていた旅行社は、コロナ禍で従業員が100人以上辞めた。

 残業がなくなったことなどから手取り給料は3万~4万円程度減少した。転職先は待遇面を重視して選んだ。男性は「収束後もコロナ禍で積み上がった赤字や借り入れを解消するとなると、従業員への還元は当面見込めない」と業界を離れた理由を語る。

 県内土産品メーカーは、生産工場で働く従業員を中心に半数が退職した。那覇市のシティホテルでも3割が退職し、総支配人は「出勤してもほぼ仕事がなく、従業員の働く意欲が持たない」と肩を落とした。

 沖縄労働局によると、1月14日時点の新型コロナ関連解雇の累計は2453人で、そのうち宿泊・飲食を含めたサービス業が約4割を占める。同局の西川昌登局長は1日の定例会見で「(求職者は)観光など影響を受けやすい職業への就職をためらう傾向がみられる」と話した。

 

■求人に難渋

 人手不足は既に顕在化している。1日に新規開業したホテルサンスイナハ(那覇市)は昨年8月に求人を出したが、想定人数に達したのは開業直前の1月と、人員確保に難渋した。

 当初は時給850円で募集していたが人が集まらず、時給を最大1200円まで上げた。川中由仁総支配人は、「通常は開業の3カ月前から求人を出せば集まる。コロナ前はここまで求人に困ることはなかった」と話した。

 経済活動が再開した昨年11、12月ごろは、ホテルが時給を千円以上に引き上げて求人する動きが相次いだ。

 

■支援要請

 2年間で1兆円の観光収入が損失したとされている沖縄観光。コロナ収束後には急速な需要回復が見込まれているが、観光従事者の減少や各社の事業規模縮小などで、コロナ前のように年間1千万人規模の観光客を受け入れられるかは疑問視されている。

 1月26日には、沖縄ツーリズム産業団体協議会が5度目の要請活動で県を訪ね、固定費や人材確保にかかる費用補助など、事業継続のための支援を求めた。

 沖縄観光コンベンションビューローの下地芳郎会長は「全ての補填は難しくても支援策は強化する必要がある。そうすれば需要回復時に県経済への大きな役割を果たせる」と話した。(中村優希)