世界は歴史的なエネルギーの転換期にあります。政府は2050年に温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を目指しています。県も昨年3月に同様の方針(沖縄県クリーンエネルギー・イニシアティブ)を掲げました。他の政策と異なり、約30年にわたる息の長い取り組みです。県内では、エネルギーの需要サイド(産業界、消費者)と供給サイド(電力・ガス会社など)の連携した取り組みが必要になります。
需要サイドでは、官と産業界が協定を締結し、協議会を開くなど、さまざまな施策が始まっています。今後は、二酸化炭素(CO2)排出減に向けた「省エネ・リサイクル」や「再生可能エネルギー(再エネ)移行」を推進するため、目標設定や具体的なロードマップ策定が必要です。各企業には、再エネシフトのための技術開発・導入や、業務の過程を効率化し再構築する「BPR」などが求められます。
供給サイドでも、「再エネの生産拡大」や「新技術の研究・導入」などが必須となります。国は30年度の再エネ電源比率の目標値を36~38%程度と定め、県は18%、さらには26%(挑戦的目標)に設定していますが、目標値にはまだ距離があります。
今後の再エネ拡大に立ちはだかるのは、沖縄県の特性です。元々供給コストの高い離島を多く抱えています。また、本土の電力系統と連系されていないため、電力の相互融通ができない「地産地消」構造にあり、高い供給予備力を確保する必要があります。
加えて、地理・地形の制約から、水力発電などの開発が困難なほか、太陽光・風力発電も季節や天候に左右されるため、台風や日照時間の影響で、年間を通じた安定供給に不安が残ります(意外ですが、沖縄県の年間日照時間は全国37位、年間快晴日数は全国最下位です)。本土からの融通が期待できない分、火力発電から再エネ発電への移行期においては、本土よりも難しいリスク管理(需給バランスの適切なかじ取り)が求められます。
こうした状況下、電力会社などは、太陽光・風力・バイオマス発電の拡大はもとより、(CO2を排出しない)水素・アンモニア火力発電の技術研究を進めるなど、本土比で大きな不利性を有しながらも、脱炭素と県民・企業のコスト負担軽減を両立させるべく、経営努力に取り組んでいます。
脱炭素に向けた技術研究や設備投資には多額の資金が必要となります。需要・供給両サイドの企業経営努力だけでなく、官の支援はもとより、県内外の民間資金(銀行融資、投資ファンドなど)を呼び込む取り組みが必要です。
この間、脱炭素への移行期には、副作用として「グリーンフレーション」、つまり「稀少化していく化石燃料(石油、石炭、天然ガス)の価格上昇に伴うガソリンや電力・ガス料金の高騰」が発生しやすいことがあらわになっています。県内の企業や家計に大きな影響を及ぼす不確定要素が増えた点は、頭の痛いところです。
この分野は、30年先を見通すのは困難です。現状の再エネは、発電コストが高く、供給が安定的でないという弱点がありますが、今後の技術革新やコストダウン次第で、こうした課題が解決され、それがさらなる導入拡大につながる好循環が生まれることが期待できます。この点、OIST(沖縄科学技術大学院大学)の沖縄県への貢献も望まれるところです。
脱炭素化は、企業にとってハードルの高い経営課題ですが、同時に、新たなビジネスチャンスでもあります。変化を前向きに捉えたチャレンジが期待されます。 (元日銀那覇支店長)
(桑原康二、元日銀那覇支店長)
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沖縄が日本に復帰して今年で50年。県民所得が全国最下位水準で貧困問題を抱えるなど県経済の課題は多い。沖縄の経済を鋭い視点で見つめてきた元日銀那覇支店長の桑原康二氏に現状分析を基に提言をしてもらう。
くわはら・こうじ 1965年広島県生まれ。シェークスピアと西洋美術史の研究者を志し、東京芸大を志望するが断念し、東京外大・英米科に入学。紆余(うよ)曲折を経て再度方向転換し、89年に日本銀行入行。那覇支店長などを務め、現在は会社役員。