逃避先としての沖縄 ……「黒の契約者」での描き方<アニメは沖縄の夢を見るか>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
挿絵・吉川由季恵

 現実の事件では、久米島近くのオーハ島に渡った英会話講師殺害犯や、映画化権の二重契約問題を起こした作家、フィクションでは映画『糸』(2020)のファンドマネジャー、昨年放送されたアニメ『白い砂のアクアトープ』(2021)や『でーじミーツガール』(2021)のアイドルなど、沖縄が本土からの逃避先になるケースは多い。

 OVA『DARKER THAN BLACK―黒の契約者―外伝』(2009)の主人公・黒(ヘイ)もまた、組織の手を逃れるために盲目の美少女型ドール・銀(イン)を伴って沖縄へとやって来る。このアニメシリーズは、南米と日本に出現した、謎のゲートの影響で、人の心を持たぬ「契約者」となった異能者が跋扈(ばっこ)する超能力バトルものだ。

 物語は各国の諜報(ちょうほう)機関や正体不明の組織の思惑が絡みながら展開する。電流を自在に操る黒は高い戦闘能力を持ち、その世界では「黒の死神」と呼ばれているが、日常世界では中国人留学生・李舜生を名乗っている。一方、本来は意志も感情も持たない、華奢(きゃしゃ)なドールの銀は、水を通じて観測霊を操り、遠く離れた場所の情報を知ることができる。

 今回取り上げる『外伝』はテレビの第1シリーズと第2シリーズをつなぐ内容だ。その物語は沖縄の場面から始まり、「米軍は出ていけ!」と書かれた立て札群の跡、シャッターの閉まった市場のアーケード街、そしてヤシの木が生えたエメラルドグリーンのビーチへと風景が切り替わる。黒と銀は新婚旅行のカップルとしてリゾートホテルに迎えられ、ロビーやレストランのBGMには三線の音色が響いている。

 組織の目を警戒し、沖縄からさらに台湾への逃避行を計画しながら、黒は銀とつかの間の安息を得るのだが、ここでも沖縄は癒しのイメージで描かれている。常に戦いの中に身を置いてきた黒は自らの孤独を銀に向かって解(ほど)く。一方、銀の中には黒に対する人間的感情が芽生え始める。もちろん静かな時間は長く続かない。やがて組織の追っ手がホテルに現れ、それを返り討ちにした黒は銀とともに台湾ではなく香港へと流れ着く。

 ところでホテル近くのひなびたフェリー乗り場で、黒がキップ売りのオバァに船で台湾へ渡れるかと尋ねる場面がある。乗り継ぎになるだろうけどね、と答えたオバァは微妙な沖縄アクセントで「アメリカさんが撤退して、表向きチャイナとの関係が良好になったからね」と付け加えていた。米軍基地が居座る現実とは異なる設定だが、アニメの中で米軍が沖縄から撤退した後の状況に言及している点は注目しておこう。

(世良利和・岡山大学大学院非常勤講師)