「10・10空襲」なぜ記載なし?沖縄戦体験者ら怒り「事実を歪曲」「知らせないのは罪」 高校教科書検定


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文科省の教科書検定に合格した2022年度高校教科書「日本史探究」、清水書院の記述。沖縄の10・10空襲に触れず、最初の無差別攻撃は東京大空襲と記した

 文部科学省が29日に検定結果を公表した2023年度の高校教科書、新設の選択科目「日本史探究」で、合格した全ての教科書に1944年の10・10空襲の説明記述がなかった。沖縄戦の体験者や、体験者の証言を収集してきた関係者からは問題視する声が上がった。

 那覇市連合遺族会の瑞慶山良祐会長(79)は、10・10空襲の史実の扱いに不快感を示した。出身は空襲で大きな被害を受けた西新町。軍隊に入っていた父親から空襲の数日前に情報があり、大規模な空襲があるとして2歳の瑞慶山さんと身重の母、叔母らで祖母の実家の大宜味に避難したという。「もし避難していなかったら、もうここにはいないだろう」と話す。

 文科省が「誤りとして意見を付すには難しい」と説明していることについて、瑞慶山さんは「どうして記載しないのか、それを説明すべきだ」と指摘する。一部の教科書で東京大空襲が「最初の無差別攻撃」とされたことについても「事実を歪曲(わいきょく)している」と指摘し、県として抗議するべきだと提起した。

 「10・10空襲を風化させない市民の集い」の霜鳥美也子代表(63)=那覇市出身=は「だんだん10・10空襲の記述がなくなっていくことを懸念していたが、国は、これから歴史を学ぶ人に10・10空襲を教える必要がないと考えているのか」と肩を落とす。

 霜鳥さんは空襲を体験した民間人を中心に聴き取りをして証言を集め、2000年に40~50人の証言集を刊行。那覇市に対し、犠牲者の名簿を作ってほしいと働き掛けてきたという。「若い人たちに知らせないことは今を生きる私たちの罪だ」と話し、若い世代への継承に力を入れていきたいとの考えを示した。
 (中村万里子)