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県民が誇る産業になるには 観光業の在り方(上)<復帰50年 沖縄経済の針路>7


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 最初に、日銀那覇支店長時代に講演や寄稿で提言していたことを引用します―。県をはじめさまざまな機関が観光に関する調査を実施した結果、以下の点が浮き彫りになった。

 (1)多くの県民が「観光は県経済に重要な役割を果たしている」と考えている一方、「観光が発展しても、自分の生活が豊かになるわけではない」と考える県民が少なくない。

 (2)生活環境の悪化などを理由に、観光客の増加を望まない住民もいる。

 (3)主力産業である宿泊業・飲食サービス業の平均給与は、県内全産業の平均を下回っており、従業員からは「給与引き上げ」「長時間労働の是正」「休暇取得」の要望が多い。

 (4)観光関連の仕事を志望する未就業者は必ずしも多くない。

 県の観光振興条例には「県民は、親切な応対に努めるとともに、行政の施策に協力しなければならない」旨が規定されている。また「観光業への理解を深め、おもてなしの心を県民が共有すること」などを目的に、毎年8月が「観光月間」と位置付けられている。

 つまり、観光業は、地域に密接しており、住民の理解や協力が不可欠な産業である。また製造業と異なり、対人・対面の仕事が多く労働集約的なため、人材が重要な経営資源である。

 にもかかわらず、地域住民や従業員は、必ずしも誇り・やりがい・幸せを感じていない。こうした状況で、観光業は「県民が誇れる・持続可能な・真の」主力産業といえるだろうか。

 前者は「オーバーツーリズム」の問題である。例えば、県は「観光目的税」の導入を検討しているが、こうした取り組みが今後、観光客受け入れ環境の改善などにつながることが期待される。

 後者は、従来からの構造的な課題である。生産性向上などを通じて企業の収益力を高め、従業員の処遇を改善する意識改革が必要である。従業員も、尊重されていると実感すれば、おのずと笑顔が増え、接客姿勢が好転し、仕事上の創意工夫も生まれ、一段と生産性・収益が向上する好循環が期待できる―。

 当時は、以上のように提言していましたが、内心では「自分は公的な立場からきれい事を言っているに過ぎないのだろうか」と自問していました。しかし、民間企業に転じ、経営の一端を担うようになり、自分の考えが間違っていなかったことを確信しています。

 折しも世界に目を向けると、資本主義の在り方を再定義しようとするグローバルな潮流が起きています。コロナ禍を受け、企業と社会の関わり方やガバナンスの在り方が改めて議論されています。

 例えば、米国経営者団体「ビジネス・ラウンドテーブル」は「企業は、株主至上の資本主義を見直し、幅広いステークホルダー(顧客、従業員、取引先、地域社会など)に配慮する経営を行い、長期的に企業価値を高めるべきだ」との声明を出しました。

 ダボス会議でも「持続可能なステークホルダー資本主義」が議題となりました。日本でも、大手商社が企業理念を「三方よし」に変更したほか、「パーパス」(企業の存在意義)が半ば流行語になっています。

 沖縄県の観光業が「県民が誇れる・持続可能な・真の」主力産業となるためにも、(「第6次県観光振興基本計画」には一部盛り込まれていますが)「地域住民や従業員の尊重」をより明示的な理念として位置付けてはどうでしょうか。コロナ禍の大変な状況が続いていますが、青臭く聞こえても、遠回りに思えても、観光業に必ずプラスになるはずです。次回に続きます。

(桑原康二、元日銀那覇支店長)


   ◇   ◇   

  沖縄が日本に復帰して今年で50年。県民所得が全国最下位水準で貧困問題を抱えるなど県経済の課題は多い。沖縄の経済を鋭い視点で見つめてきた元日銀那覇支店長の桑原康二氏に現状分析を基に提言をしてもらう。

 


 くわはら・こうじ 1965年広島県生まれ。シェークスピアと西洋美術史の研究者を志し、東京芸大を志望するが断念し、東京外大・英米科に入学。紆余(うよ)曲折を経て再度方向転換し、89年に日本銀行入行。那覇支店長などを務め、現在は会社役員。